[アグニシュトーマ基本構造の再構築および再検討]古インド・アーリヤ人である婆羅門が伝承してきたソーマ祭の様相は多岐にわたるが、その基本形をアグニシュトーマと呼ぶ。執行期間五日間中のうち初日から四日間続く諸準備儀礼に関する記述は、特にヤジュルヴェーダ学派のシュラウタ・スートラ文献群において詳しい。近年公刊・注目され、いまやヴェーダ祭式研究において欠かせなくなったヴァードゥーラ学派のシュラウタ・スートラのアグニシュトーマ章は、これまでその全貌が明らかではなかったが、その読解と他学派との比較・分析を行うことはアグニシュトーマ準備諸儀礼全体の再構築に必要不可欠であった。本研究では冒頭の潔斎儀礼に関してその精査を行ってきたが、ヴァードゥーラ学派は、他の学派にはないいくつかの特有の儀礼を伝えるとともに、最も古く保守的なバウッダーヤナ学派との近似性を示しつつも随所で異なる見解を提示するという特徴を持っていることが明らかになった。従ってヴァードゥーラ学派は、比較的新しい諸学派に先行し、その後のそれらにおける変革・改革のきっかけとなった可能性が指摘できる。結論にはさらに多くの検証事例が必要となるが、本研究の成果はその一つとして重要な意義を持つ。 [古代との架け橋―現代のアグニシュトーマ]本年はフィールドワークの一環として2020年にインド北部ウッタラーカンド州ハリドワールにおいて記録したアグニシュトーマの映像を取りまとめた。現代のアグニシュトーマはシュラウタ・スートラ文献のスタイルを色濃く残すプラヨーガ文献と呼ばれる近代に成立したテキストにおおよそ依拠していたが、古代儀礼としてのアグニシュトーマを再考するうえでも大いに役立った。
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