研究課題/領域番号 |
18K00063
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
種村 隆元 大正大学, 仏教学部, 准教授 (90401158)
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研究分担者 |
SHAKYA Sudan 種智院大学, 人文学部, 教授(移行) (60447117)
VASUDEVA S 京都大学, 文学研究科, 教授 (10625594)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インド密教 / アーヴェーシャ / 憑依 / 『真実摂経』 |
研究実績の概要 |
研究代表者の種村は,『真実摂経』およびその儀礼マニュアルである『一切金剛出現』の校訂テキストおよび訳註作成の作業を進める傍ら,金剛頂経系密教にみられるアーヴェーシャの機能について考察した.『真実摂経』に関しては,第1章「金剛界大マンダラ」の灌頂セクション直後に規定される「四種類の成就」のセクションの校訂テキストおよび訳註を作成した.ここでは実践者が自らにアーヴェーシャを引き起こすことにより,様々な超自然的な力を得ることが規定されており,アーヴェーシャが『真実摂経』において悟りの原理として機能している一方で,現世利益の原理としても機能していることを指摘し得た.また,『一切金剛出現』に関しては,『ヴァジラシェーカラタントラ』のテキストを組み込んでいることを新たに見いだした. 研究分担者のShakyaは,アーヴェーシャに関連の深い「クマリ・プージャ」儀礼に関する梵語およびネワール語による資料を精査した.その結果、実際の儀礼と文献資料に内容の隔たりがあることが判明し,疑問点も多々残った.その解決のため,2020年3上旬に追加資料の収集と儀礼に携わった現地僧侶たちとの聞き取り調査を予定していたが,COVID-19感染拡大のために叶わなかった. 研究分担者のVasudevaは,前年度に引き続き「微細な身体」(ヨーガ実践者に想定される仮想的身体)とアーヴェーシャ諸実践の関係についての考察を行い,特に(1)『シャットチャクラニルナヤ』(ジャヤッドラタヤーマラ関連文献),(2)シヴァスヴァーミン著『シャットチャクラニルナヤ』,(3)『マーリニーヴィジャヨーッタラ』第19,20章の予備的エディションを作成した.そして,(3)についてはその中に,密教(仏教)経典の『サンヴァローダヤタントラ』とのパラレルがあることを見いだした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主要資料である『真実摂経』については,アーヴェーシャ関連セクションの校訂テキストおよび訳註の最初の成果を予定通り発表することができた.2020年度は,前年度に引き続き「四印による印づけ」(実践者にアーヴェーシャを引き起こすための「手続き」)のテキストおよび訳註を発表を計画している.可能であれば,アーナンダガルバおよびシャークヤミトラの註釈の訳註も併せて発表したい.また,『一切金剛出現』については,海外研究協力者のアルロ・グリフィスが,9月にナポリ東洋大学で行われたワークショップにおいて読み合わせを行い,また種村が1月に大正大学で行われた研究会において,ピーター・ダニエル・サント(ライデン大学)を招聘し読み合わせを行った.そこで多くのフィードバックを得て,テキストおよび訳註の精度を高めることができた. 研究分担者のShakyaは,予定通りネパールで実践されているアーヴェーシャ儀礼の文献調査を進めている. 研究分担者のVasudevaは,「研究実績の概要」で示したように,シヴァ教のアーヴェーシャ関連のテキスト校訂および内容分析を行っており,複数のテキストの予備的エディションを完成させている.そしてその中で仏教文献とのパラレルを見いだしており,アーヴェーシャの実践に関する,仏教・シヴァ教の具体的な関係に関する道筋を見いだしている. このように,概ね順調に進捗しているが,テキストの細かい内容分析に必要な対面での研究会や調査等が,covid-19の影響により実施できないでいる.(Shakyaに関しては「研究実績の概要」で述べたとおり.Vasudevaは,UC Berkeleyでのvon Rospatt教授との研究会をキャンセルせざるを得なかった.)2020年度はこのような状況下でどのように国際共同研究を進めていくが課題である.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主要部分である『真実摂経』のアーヴェーシャ関連セクション,および『一切金剛出現』の校訂テキストおよび訳註作成については,これまで海外研究協力者のアルロ・グリフィスと週1回程度のオンラインセッションを重ねていくとともに,インド密教分野で若手気鋭のピーター・ダニエル・サントの協力も得て,詰めの作業を行っていきたい. 密教のアーヴェーシャとシヴァ教のアーヴェーシャに関しては,研究分担者のVasudevaが新たにパラレルな内容を発見するなど,具体的な関係に関する手がかりを集めている.今後ともこの方向を継続していきたい. またShakyaもネパール仏教でのアーヴェーシャ儀礼の調査を継続していくことで,『真実摂経』からのアーヴェーシャの展開を見ていきたい. 懸念材料は,昨今のcovid-19による影響により,共同研究会や調査などの対面を要する形態の作業が滞っていることである.これらに関しては,skypeやzoomなどのオンラインツールを使用することにより,できる限り影響を最小限に抑えたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は,研究代表者が,近親者の体調不良や学事日程により,予定していた海外ワークショップへの参加ができなかったこと,また予定より図書費の支出が少なかったことにより,残高が生じることとなった.次年度繰越金は,海外研究者の研究会への招聘に使用し,そこでのフィードバックを研究成果に反映させる計画である.
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