研究課題/領域番号 |
18K00064
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
三浦 周 大正大学, 仏教学部, 非常勤講師 (60646222)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 排仏論 / 護法論 / 聖徳太子 / 明治天皇 / 新仏教 / 皇道仏教 / 仏教青年会 |
研究実績の概要 |
エリック・ボブズボウム『創造された伝統』(1992)を手がかりに、近代においては読み替え・語り直しが生じ、伝統が創造されるという作業仮説に基づき、近代仏教では、何が読み替え・語り直され、伝統として創造されたかをみるため、あらためてプレ近代思想としての近世排仏論・近代護法論を調査した。その成果を宮城教区智山青年会勉強会等で講演し、論文「村上専精の排耶論」としてまとめた。これは令和二年度刊行のオリオン・クラウタウ編『村上専精と日本近代仏教』(法蔵館)に収録される。 同様に「聖徳太子」を調査した。排仏論の「聖徳太子」批判は、仏教の受容、蘇我馬子への処遇、女性天皇の擁立を骨子とし、護法論の反駁は根葉花実論に根ざす王法解釈を骨子とする。ここで得られた知見をもとに以降の聖徳太子関連言説を調査した。いわゆる新仏教徒である境野哲『聖徳太子伝』、高島米峰『聖徳太子と逆臣馬子』等では、聖徳太子が明治天皇と比定されている。これは仏教学者のみならず、教育哲学者上領三郎、歴史学者三浦周行等においても確認される。こうしたイメージの変遷をうけて、儒学史・国学史上での聖徳太子(あるいは十七条憲法)記述にも変化が認められる点を岩橋遵成『日本儒教概説』、藤田徳太郎『新国学論』等で確認した。また、そのイメージが拡大し、たとえば、社会事業の祖となっていく点を徳鳳『護法小策』、橋川正『日本仏教と社会事業』、浅野研真『聖徳太子と社会事業』等から確認した。こうして拡大したイメージは「日本文化の母」(高島米峰)まで昇華され、それが日本仏教と帝国日本の接続点として戦時下の大学制度にも敷衍される例を大正大学学事資料から確認した。これらの成果を蓮花寺佛教研究所研究会、佛教文化学会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度の研究目的「近代仏教学の展開 皇道仏教・戦時教学」、研究項目「聖徳太子観の変遷」「仏教系大学における聖徳太子の位置づけ」は概ね順調である。しかし、研究目的「近代仏教学の形成 梵語学」、研究項目「梵語学者の研究環境」、研究計画「泉芳璟蔵書調査」「上田恭輔人物調査」については、予定していた大谷大学・コーネル大学での調査がコロナ禍によって行えていないため、計画どおりとはいえない。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に基づき、令和二年度は「仏教系大学の戦時的特色」「仏教系大学の伝道学」「仏教青年会の戦時的特色」の調査をすすめる。ここでは和崎光太郎『明治の〈青年〉:立志・修養・煩悶』(2017)を手がかりに、非青年による青年論に注視し、「新仏教」概念を問い直すため、「新仏教」あるいはこれに類する概念の用例を関連書籍等から調査する。また、社会情勢に鑑み、実地調査ではなくデジタルアーカイブされた文献資料の調査を主とする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって予定していた調査が実施できなかったのが主たる理由である。その使用については、社会規範に則り、無理がなければ令和二年度に実施するが、特にコーネル大学での調査は、メール等を使用した資料の所在確認、可能であれば画像データ等の提供依頼というかたちで実施する予定である。
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