研究課題/領域番号 |
18K00066
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研究機関 | 身延山大学 |
研究代表者 |
槇殿 伴子 身延山大学, 国際日蓮学研究所, 研究員 (40720751)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マニ・カンブン / 観自在菩薩 / カーランダヴューハスートラ / 埋蔵経 / ソンツェンガンポ / 六字真言 / ゾクチェン / 極楽浄土 |
研究実績の概要 |
2019年度の実績は学会賞受賞が1件、学術学会での口頭発表が3件、学術雑誌での論文発表が3件、以上7件である。口頭発表は、国際学会が1件、国内学会が2件である。7月にパリの国立東洋言語文化研究所(INALCO)で開催された第15回国際チベット会議において”The Vessantara Jataka in Tibet: Its Transformation into Mahayana Scripture”と題する発表を行い、9月に、日本印度学仏教学会第70回学術大会(佛教大学紫野キャンパス)で「チベット仏教文献読解における口伝の役割-コントルの『了義大中観に対する23の誤謬』の読解を例として」を行った。ここで、『マニ・カンブン』の建国神話に説かれた、「教えの意味は師匠から伝えられる」という一文を引用し、並びに『マニ・カンブン』中に現れる「ウ・チャク・ゾク・スム」として知られる大中観、チャクチェン、ゾクチェンの教えに言及した。さらに、9月に、日本宗教学会第78回学術大会(帝京科学大学千住キャンパス)で「チベットの建国神話伝説に観られるインド仏教の継承」と題する発表を行った。『マニ・カンブン』の「偉大なる歴史章」を取り上げ、全36話の概要を解説すると共に、『カーランダヴューハスートラ』の引用文献研究を行った。具体的にはヴァイディヤ編のサンスクリット語テキストと漢訳を用いた比較考察を文献学的に行った。これらの発表は身延山大学国際日蓮学編『日蓮学』3(2019年10月、pp. 17-50)、『宗教研究』93(別冊, 2020年3月、pp. 318-319)『印度學佛教學研究』68(2)(2020年3月、pp. 897-905)にて刊行された。8月にインドのサールナートにおけるチベット寺院で2週間に渡って学術調査を行い、『マニ・カンブン』の文献読解を口伝によって行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度も前年度、前々年度、前年度から引き続き、『マニ・カンブン』における「偉大なる歴史巻」の和訳と校訂テキストの準備を進める。この校訂テキスト編纂に際しての大きな進展は、『マニ・カンブン』の現存する6版(デプン、デルゲ、ウランバータル、北京、グンタン、ムスタン)すべてが入手できたことにある。前5版は本研究開始時点で入手済みであった(5版の詳細は佛教思想学会編『佛教學』59、2018年4月、山喜房佛書林刊, pp. 53-80)が、ムスタン版は未入手であった。2019年実績で報告した、パリでの第15回国際チベット学会において、米国議会図書館員スーザン・メイネール氏との交流を通じて、メイネール氏の助力を得て、入手する運びとなった。同学会での発表は英文論文にて刊行準備中(Indian International Journal Buddhist Studies)にて査読中である。パーリ学仏教学会より学術賞を授与され、第三者からの評価を得られたことは研究への励みとなった。さらに、2017年と2018年の印度学仏教学会に『マニ・カンブン』の借用経典:『カーランダヴユーハ・スートラ』と『カチェン・カコルマ』」との題目で発表を意図したが採択されなかったが、当該年度に『マニ・カンブン』における『カーランダヴューハスートラ』の引用研究の発表の機会を得ることができ、研究成果が『宗教研究』にて査読中であることは大きな進展である。さらに、本研究の最終的な成果の総括としての図書の刊行先が決定したことも研究を後押ししている。当初は、身延山大学望月海慧教授の指導の下、身延山大学仏教学から刊行Bibliotheca Tibetica et Buddhica から刊行することを計画していたが、起心書房から2021年3月の刊行となった。刊行のための時間軸も決まり、出版準備に入ったことは大きな進展である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、本研究の総括として、『チベット建国説話と観自在信仰─『マニ・カンブン』「偉大なる歴史巻」を中心に─』(起心書房2021年3月刊行予定)と題する学術図書の刊行を準備している。この図書の内容の構成要素として、今年度は前年度、前々年度、前年度から引き続き、『マニ・カンブン』の木版版6版を用いた校訂テキストと36章の和訳による全訳に取り組み、完成させる。論文発表を3件予定している。まず、7月に、印度學仏教学会第71回学術大会(創価大学オンライン会議)において「『マニ・カンブン』における如来蔵思想」を口頭発表する。続いて、第79回日本宗教学会学術大会(駒沢大学、オンライン会議)に「『マニ・カンブン』における観自在菩薩の21経典」を口頭発表することが決定している。この発表は2014年に第65回印度学仏教学会学術大会(武蔵野大学有明キャンパス)におけるパネルにての口頭発表並び日論文発表(「チベットにおける『法華経』の用法 : 観音信仰と一乗思想」『東洋文化研究所所報』(29)2015, pp. 19ー59)を修正するものである。そこで、観自在菩薩の顕密21経典の引用文献の特定を行ったが、本研究の主要部分のなす、『マニ・カンブン』木版印刷6版の校訂の結果、観自在菩薩の顕密21経典の引用文献の中で『カーランダヴューハスートラ』からの引用を省いた版があることが判明したためである。そのため、先の研究結果に誤りが生じ、これを正すものである。口頭発表後、これらを論文として刊行を望んでいる。さらに、『マニ・カンブン』における「ウ・ゾク・チャク・スム」(大中観・ゾクチェン・マハームドラー)の口頭発表と論文発表を計画している。研究計画中、当初、本年度に予定していたネパール・インドでの学術調査はCOVID-19により、断念する。
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