研究課題/領域番号 |
18K00073
|
研究機関 | 公益財団法人東洋文庫 |
研究代表者 |
會谷 佳光 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (50445714)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 『大正新脩大蔵経』 / 「増上寺報恩蔵本」 / 酉蓮社 / 書誌学 / 嘉興蔵 |
研究実績の概要 |
酉蓮社本と『大正蔵』の校勘作業に着手するため、『大正蔵』普及版39-47巻、『昭和法宝総目録』第3巻を購入するなど資料収集に努めた。 8月の京都出張では、佛教大学紫野キャンパス図書館にて、『大正蔵』の実際の底本に使われたとも言われる上海頻伽精舎校刊大蔵経の調査を、同館所蔵本で行い、總目をはじめ、増上寺報恩蔵本と関連のある経典の一部について複写を行った。2月の京都出張では、大谷大学図書館にて、『大正蔵』の『金光明経文句文句記』の校本に使われた承應3年中野小左衞門刊本を調査して全文複写を行った。本調査によって、承應3年に合刊された『金光明経玄義拾遺記』では大正大学所蔵本が使われ、『文句文句記』のみ大谷大学所蔵本が使われており、大正蔵の編纂において、同一版本が複数箇所に所蔵されているとき、編纂が行われた東京近郊の版本が優先的に使用され、東京近郊に所蔵がない場合に京都等の所蔵本が使用された可能性があることが明らかとなった。その他、大正大学所蔵の『金光明経玄義拾遺記』の全文複写を行い、『大正蔵』および酉蓮社本との詳細なテキストクリティークを行うための準備を行った。 酉蓮社本のデジタル画像撮影を迅速・精細に行うため、スキャナー(富士通SCANSNAP SV600)と、経本の撮影に特化した撮影台の作成を撮影業者に発注して酉蓮社に備え付けた。 『昭和法宝総目録』第一巻「大正新脩大蔵経勘同総録」から初版時の底本・校本情報を抽出し、これを普及版の脚注に記載される底本・校本情報と比較することで、初版から再刊時の底本・校本の異同をあぶり出すための「『大正蔵』底本・校本一覧データベース」の作成に着手した。このデータベースには、『大正蔵』諸本の奥付画像を収集することで、正確な刊行年月、製本業者、奥付の踏襲・流用の状況、刊行の先後や刊行頻度など、本文からでは見えてこない出版をめぐる周辺情報を取り込んでいる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、『大正蔵』編纂の際、「増上寺報恩蔵本」として採録された130点203冊701卷の酉蓮社本のうち約半数に対して、デジタル撮影、画像データの集積、『大正蔵』とのテキストクリティークを行い、『大正蔵』編纂の実態の解明のための校勘結果の蓄積に取り組む予定であった。 しかしながら、2017年11月18日(土)開催の仏教史学会学術大会にて発表した、サンプル調査にもとづく研究結果について、当日の質疑応答およびその後の『佛教史学研究』投稿時の査読意見を受けて、本課題をより実効的に推進するためには、『大正蔵』自身の初版である(1)線装本と(2)洋装本、(3)昭和35~54年(1960~79)の再刊本、および再刊本に基づく(4)普及本と(5)SAT大正蔵新脩大蔵経テキストデータベース、特に前三者の異同が底本・校本との間にどのような問題を生じさせているかについても検討する必要性があることが判明した。 そこで、2018年度は、これら大正蔵間の異同を一目瞭然たらしめるべく、「『大正蔵』底本・校本一覧データベース」を作成することに注力した。そのため、酉蓮社本を使った校勘作業に取りかかることを延期した。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度に作成を開始した「『大正蔵』底本・校本一覧データベース」は、7割方完成しているので、2019年度の早い時期に完成・公開を目指す。それと併行して、酉蓮社本中の調査対象経典に対してスキャニング作業を開始して、本研究課題の主目的である酉蓮社本と『大正蔵』、およびその他諸本とのテキストクリティークを実施し、できるだけ多くの経典について調査を行い、校勘結果を蓄積する。 すでに冊子体とPDFによって公刊した酉蓮社本の簡易目録(分類、函冊、書名、巻数、附録、刊年等の情報、および『大正蔵』収録経典一覧を収録)である拙著『酉蓮社(旧三縁山増上寺山内寺院報恩蔵)収蔵嘉興版大蔵経目録』(酉蓮社、2012年3月。http://doi.org/10.24739/00006484)の元データである詳細目録(未公開)に対して、データの校正、書誌情報の追加などの整備を施して、最終年度に東洋文庫ホームページ上で公開するための準備を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
撮影業者に発注したスキャナーと撮影台の製作・納品が遅れ、1月に入ってしまったため、酉蓮社でのスキャン作業の実施を2019年度に延期した。また、2月に大谷大学に依頼した準貴重書の複写に15万円ほどを見込んでいたが、3万円弱で済んだ。そのため次年度使用額が生じた。これら次年度使用額は、2019年度に請求した助成金と合わせて、酉蓮社の経本の撮影作業謝金および酉蓮社本以外の『大正蔵』の底本・校本の文献複写費、および「『大正蔵』底本・校本一覧データベース」の製作費用に使用する予定である。
|