研究課題/領域番号 |
18K00073
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研究機関 | 公益財団法人東洋文庫 |
研究代表者 |
會谷 佳光 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (50445714)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 『大正新脩大蔵経』 / 「増上寺報恩蔵本」 / 酉蓮社 / 書誌学 / 嘉興蔵 / 『大正新脩大蔵経勘同目録』 / 脚注 / データベース(IIIF・TEI) |
研究実績の概要 |
酉蓮社本のスキャニング作業について、2020年度は69種108冊約12,000コマをスキャンし、大正蔵の底本・校本に用いられた酉蓮社本のデジタル化を完了した。 『大正新脩大蔵経勘同目録』と脚注の底本・校本に関する情報を対照したエクセルデータを整理して、情報学の専門家中村覚氏(現在、東京大学史料編纂所助教)の協力を得て、データベース化を進め、「『大正新脩大蔵経』底本・校本データベース」(https://taishozo.github.io/db/)を構築した。 2010~12年の調査の際に作成した酉蓮社本の詳細目録をデータベース用に整理し直し、中村覚氏の協力を得て「酉蓮社(旧増上寺報恩蔵)蔵嘉興版大蔵経目録データベース」(https://taishozo.github.io/u-renja/)を構築した。 両データベースを連携させるとともに、酉蓮社住職の青木照憲氏の了承を得て酉蓮社本のスキャニング画像ともリンクさせた。「『大正新脩大蔵経』底本・校本データベース」には、そのほか、大蔵出版株式会社の了承を得て『大正新脩大蔵経勘同目録』の全文画像データ(IIIF)をリンクさせ、SAT大藏經テキストデータベース研究会の了承を得て「SAT大正新脩大藏經テキストデータベース2018版 (SAT 2018)」の各経典冒頭へのリンクを貼った。 本研究の目的である大正蔵と酉蓮社本のテキスト比較については、テキストデータ公開のための国際的ガイドラインTEI(Text Encoding Initiative)を導入して実施する方針に変更し、SAT大藏經テキストデータベース研究会より提供いただいた『釈禅波羅蜜次第法門』のIIIFテキストを元に酉蓮社本のTEIテキストを作成するべく、校勘情報のタグ付け作業を開始するとともに、中村覚氏の協力でIIIF画像とリンクしたTEIビューワーの開発を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的である大正蔵と酉蓮社本のテキスト比較については、テキストデータの国際化・継承性を考え、テキストデータ公開のための国際的ガイドラインTEI(Text Encoding Initiative)を導入して実施する方針に変更した。そのため、TEIのタグ付けルールの習得などに時間を要している。 また、2019年度の研究成果によって、大正蔵は諸版の和装本・洋装本、再刊本、普及版の間に従来から知られる再刊時の補訂以外にも大小様々な異同があることが判明した。かつ大正蔵編纂の際、三大蔵経や酉蓮社本など底本・校本に用いたと記録されるテキストによらず、縮刷蔵経や頻伽蔵を使った経典があるとの指摘もあり、単純に酉蓮社本と大正蔵のいずれかの版を比較しても、十分な結果が得られない可能性がある。 そこで、SATよりTEIテキストを提供いただいた『釈禅波羅蜜次第法門』をサンプルとして、大正蔵諸版の画像を比較し(異同箇所を機械的に自動判別するシステムの試作を検討)、縮刷蔵経・頻伽蔵経の画像とテキストをIIIF・TEIを駆使して比較できるようにし、そのうえで酉蓮社本との異同を調べることで、大正蔵が酉蓮社本に直接依拠したのか、それとも縮刷蔵経や頻伽蔵経を使ったのか、解明することとした。 大正蔵や縮刷蔵経は活字が小さく、高精細に撮影するには予算が足りないため、古書の購入などで原本を入手してスキャニング作業を行った。 酉蓮社本のIIIF画像は、当初圧縮したものをIIIF化してデータベースにリンクさせていたが、より高精細にするため、圧縮前の高精細画像への差し替えを行うことにした。 これらの方針変更によって生じた作業が2020年度内に終了できず、補助事業期間の延長を申請することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
酉蓮社本のIIIF画像をより高精細にするため、圧縮前の高精細画像への差し替えを行う。 「『大正新脩大蔵経』底本・校本データベース」の整備・拡充は、2021年度に新たに採択された基盤研究(A)「漢文大蔵経の文献学的研究基盤の構築:『大正新脩大蔵経』底本・校本DBの活用と拡充」に移行して大規模化することとし、本研究においては、『釈禅波羅蜜次第法門』をサンプルとして、2019年度に解明した大正蔵諸版の異同や、従来から大正蔵との関係が指摘されている縮刷蔵経・頻伽蔵経との比較などを行い、大正蔵編纂の実態に迫る予定。
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次年度使用額が生じた理由 |
IIIF画像構築のため『釈禅波羅蜜次第法門』を収録する『大正新脩大蔵経』46巻の再刊本を購求するべく古書店等を通して捜索していたが、見つからなかったため。その後、Amazonで第46巻の再刊を発見し、2021年4月に購入し、スキャニング作業を実施した。今後、大正蔵諸版のIIIF画像の比較システムの試作、縮刷蔵経・頻伽蔵経とのテキスト比較、および酉蓮社本TEIテキストとの比較・タグ付けを行い、大正蔵編纂の実態解明に取り組む計画である。
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