大正蔵と酉蓮社本のテキスト比較について、2020年度にテキストデータの国際的ガイドラインTEIを導入して実施する方針に変更したため、2021年度に補助事業期間を延長した。 これまでの研究成果から、大正蔵は従来から知られる再刊時の補訂以外にも初版の和装本・洋装本、再刊本、普及版の間に大小様々な異同があることが判明した(未見ながら再刊本の第41回配本第82巻(1965年刊)に正誤表が含まれることも判明した)。かつ大正蔵編纂の際、底本・校本に用いたと記録されるテキストによらず、縮刷蔵経や頻伽蔵を使った経典があるとの指摘もあり、単純に大正蔵のいずれかの版を酉蓮社本と比較しても、十分な結果が得られない可能性がある。 そこで、SAT大藏經テキストデータベース研究会より提供いただいた『釈禅波羅蜜次第法門』のTEIテキストをサンプルとして酉蓮社本のTEIテキストを作成した。さらに大正蔵諸版の画像を比較して異同箇所を機械的に自動判別するシステムを試作し、IIIF・TEIを活用して縮刷蔵経・頻伽蔵経と比較できるようにし、そのうえで酉蓮社本との異同を調べることで、大正蔵が酉蓮社本に直接依拠したのか、それとも縮刷蔵経や頻伽蔵経を使ったのか解明するべく、研究協力者の中村覚氏(東京大学史料編纂所助教)とシステム構築の検討を進めた。なお酉蓮社本の画像は当初圧縮したものをIIIF化してデータベースに登録していたが、圧縮前の高精細画像に差し替え、2021年7月に一般公開した。 これらの方針変更で生じた作業が、2021年度においても十分に進展させることができなかった。幸い2021年度に基盤研究(A)「漢文大蔵経の文献学的研究基盤の構築:『大正新脩大蔵経』底本・校本DBの活用と拡充」(21H04345)が新たに採択されたので、本研究は基盤研究(A)に継承して、引き続き大正蔵と酉蓮社本のテキスト比較に取り組んでいく。
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