研究課題/領域番号 |
18K00079
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研究機関 | 茨城キリスト教大学 |
研究代表者 |
志賀 市子 茨城キリスト教大学, 文学部, 教授 (20295629)
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研究分担者 |
宮内 肇 立命館大学, 文学部, 准教授 (10722762)
稲澤 努 尚絅学院大学, 総合人間科学系, 准教授 (30632228)
石野 一晴 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 講師(非常勤) (90804047)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 粤西 / 鑑江流域 / 西江 / 廟 / 鸞堂 / 宗教的聖地 / 洗夫人信仰 / 龍母信仰 |
研究実績の概要 |
2018年度の主な研究活動は、メンバー全員による海外共同調査とメンバー各個人による資料調査や現地調査、及び全体集会としての研究会を行った。海外共同調査は、対象地域に対する理解を深めることを目的として、2018年8月9日から17日にかけて、中国広東省粤西地域(西江、鑑江流域)で行った。主な調査地は呉川市、高州市、信宜市、肇慶市である。廟や祠堂の歴史と現状についての観察及び聞き取りの他、旧市街の建築や博物館の見学も行った。また寺廟に保管されている民間の経典の写真撮影を手分けして行なった。調査にあたっては、高州市博物館館長の陳冬青氏に全面的な協力をお願いした。 個人による調査は、メンバーのそれぞれのテーマに沿って行われた。志賀と稲澤は香港の坪洲悦龍聖苑(龍母廟)の進香活動に関して、12月の「還神祈福進香団」に参加し、悦城龍母廟等で行う龍母の「沐浴更衣」の儀礼を見学した。また志賀は、2019年2月に呉川市黄坡鎮の年中行事の一つ「年例」を調査、稲澤は3月に高州の水上居民の年例を見学した。宮内は粤西地区の宗族について、石野は2月に広東の道教聖地、羅浮山の調査と洗夫人信仰についての文献調査を図書館や档案館で行った。 3月末に学習院大学で行った研究会では、今年度の調査研究から導き出されたそれぞれの研究テーマに基づき、研究史の整理、整理中の調査資料の概要、今後の研究に向けての課題を報告し、意見交換を行った。また最終年度のワークショップをどのような形で行うかの具体的な計画についても話し合った。 初年度であるため、論文化した研究業績はまだほとんどないが、志賀は本研究課題の対象地域の鸞堂と救劫経についての調査報告を日本の学会と香港、台湾の国際学会で行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題のメンバーは、志賀を除いて粤西地域での調査は初めてであるため、全体のテーマに沿った個人のテーマを短い期間で選定し、調査研究を開始することができるかどうかという懸念が最初にあった。だが年度末の研究会では、それぞれがこれまで進めてきた研究をベースとして、本研究計画のテーマに沿った新たな研究課題が示された。 具体的には、稲澤は高州の元水上居民の居住地をフィールドとして選定し、すでに何度かの現地調査を行っている。宮内は、これまで進めてきた広東省の宗族研究から出発して、信宜地区の宗族・地域エリートの歴史的形成について研究を進めている。石野は、これまで主にとりあげてきた中国北方地域の聖地巡礼とは別に、本科研では洗夫人信仰に新たに焦点をあてて歴史的研究を進めている。志賀は、夏に行った共同研究で収集した民間の経典の整理を進めるとともに、この地域の民間信仰全般についての理解を深めるために、年例などの調査を進めている。この地域の宗教的聖地についての歴史民族誌を描き出すには、資料はまだ十分とはいえないが、準備段階はすでに終え、これからの研究の進展に期待できる段階に入っている。 以上の点から、本研究課題の進捗状況はおおむね順調に進展しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、メンバー全員が参加する共同調査ではなく、個人が設定したテーマに基づいた個人調査を基本として進めていく。志賀は未見の宗教儀礼や高州市の鸞堂などを対象として調査を行い、この地域の宗教的聖地の全体像を把握することを目指す。稲澤は、今年度も龍母信仰と水上居民の調査を進めていく予定である。宮内は、宗族を中心に、対象地域の清末から民国期にかけての社会経済史に関して引き続き資料を集める。石野は、洗夫人信仰を中心に、対象地域の民間信仰の歴史的変遷を明らかにしていく予定である。 ただ、本対象地域の宗教的聖地は極めて多岐にわたっており、資料も予想以上に豊富であるため、3年間という短い期間で全体を網羅できるのかという懸念が出てきた。調査すべき祭礼や儀礼の数が多いことはよいが、祭礼や儀礼はその日程に合わせて渡航しなければならないため、大学業務との兼ね合いで、調査する時間がなかなかとれないというジレンマを抱えている。さらに、最終年度のワークショップでは、海外の研究者を複数招くことを考えており、そのための費用をどのように捻出するかが課題となっている。 こうした点を鑑みて、本研究課題の全体計画を改めて見直し、期間の延長や予算の増額が可能かどうかを現在検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、研究分担者宮内肇に配分した分担金からである。宮内は2018年度の研究過程において、1920年代の粤西地域における中国共産党の活動を記録した資料が台湾中央研究院近代史研究所に所蔵されていることを知った。そこで急遽、年度末に訪台調査を計画したが、学内業務により訪台の時間を捻出することがかなわなかった。そのため、その経費を2019年度へ繰り越すことにした。 宮内は、2019年度に関連書籍の購入および夏季休暇における中国・広東省への史料調査を計画しているが、これに加えて2018年度に実施できなかった台湾中央研究院近代史研究所での史料調査も実施したい。その経費は2018年度からの繰越額(58,707円)を充てる予定である。
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