研究課題/領域番号 |
18K00087
|
研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
三好 千春 南山大学, 人文学部, 教授 (30241912)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 第一次世界大戦観 / 日本 / カトリック教会 |
研究実績の概要 |
2018年度は、日本カトリック教会の第一次世界大戦観について、当時のカトリック系雑誌記事を中心に分析・考察を行った。これは、本来の研究目的の一つである、アジア・太平洋戦争期(1931~1945年)の日本人カトリック教会指導者たちの戦争をめぐる言説の考察を深めるべく、日本カトリック教会がそもそも抱いていた戦争観を明らかにすることを目的とするものである。 その結果、日本カトリック教会の第一次世界大戦観は、同時代のフランスの教会に強かった「戦争の神学」、すなわち、戦争は信仰の復活をもたらすなどの恵みをもたらす神の摂理の業、神の愛の発現であるという戦争観と重なる部分が多く、教会は、その悲惨さを上回る「福利」があるとして戦争を強く肯定していたという、これまで指摘されてこなかった教会の戦争観の一面を明らかにし得た。 この研究の成果を日本カトリック神学会第30回学術大会(上智大学)にて発表し、カトリック教会は戦争反対の立場をとるはずにもかかわらず、国家や軍部の圧迫、特に、1932年の上智大学靖国神社参拝拒否事件を契機に、いわば社会に迎合する形で戦争協力をするに至ったという、従来の見方に修正を迫った研究として評価を受けた。発表原稿はその後論文としてまとめ、『日本カトリック神学会誌』第31号に掲載予定である。 また、現在『福音宣教』(オリエンス宗教研究所発行)に近代日本カトリック教会史に関して「時の階段を下りながら」と題して連載を行っているが、その第16回に「カトリック教会と『忠君愛国』」と題して、当時の教会がどのような神学に基づき、国家や天皇について考えていたかに関する論考も発表した。 そして、上記の研究と並んで、本研究課題の一つである、カトリック教会の反共産主義に関する文献調査を開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記でも述べたように、当初予定していた研究課題とは別の課題に取り組む必要が生じたため、研究実施計画の一部を変更せざるを得なくなったためである。 また、私的なことであるが、私が予想外の入院・手術を受けなければならなくなり、退院後も自宅療養を余儀なくされたため、予定していた東京その他での史料調査が行えなかったことも理由の一つである。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は、当時の教会が抱いていた反共産主義の実態の解明を目指す。これは、日中戦争を支持する教会の言説に反共産主義が明確に打ち出されているため、教会の抱く戦争観と並んで、反共産主義の実態を解明することによって、本研究課題である教会の戦争協力の内的動機と内的「動員」をより深く理解できると考えるからである。 そこで、カトリック系雑誌を中心に教会の反共産主義に関する言説を分析・考察し、その具体的な内容や、それが教会の戦争協力にどう作用したかについて解明する。そして、その成果を学会で発表し、論文執筆をめざす。 また、それと並行して、当時の日本カトリック教会が、信徒に教会の教えとして語っていた国家や戦争に関する神学的言説に関する調査を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の春休みに東京その他で史料調査を行う予定が、私的理由(入院・手術)のために実施できなかったためである。
繰り越し分を2019年度中に実施できなかった史料調査の交通費・滞在費などに充当する予定である。
|