研究課題/領域番号 |
18K00087
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
三好 千春 南山大学, 人文学部, 教授 (30241912)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日本カトリック教会 / 日中戦争 / 反共産主義 / 正戦論 |
研究実績の概要 |
2020年度は、日本カトリック教会が抱いていた日中戦争観を中心に研究を進めた。第一に行ったのは、日中戦争を行っている大日本帝国の行為が正しいことを欧米のカトリック教会に向けて説明した、日本カトリック教会のプロパガンダ小冊子である『日本カトリック信徒の支那事変観』の内容を分析したことである。そして、日本カトリック教会が、カトリック教会の伝統的な「正戦論」を使って、日中戦争を正当化していること、また、「正戦論」において、その戦争が正戦であることを認定するために重要な「正当な理由」の内容を分析した結果、この戦争が自衛戦争であるという主張と共に、東アジアにおける共産主義拡大を防ぐという「防共」ゆえに正戦であり、欧米のカトリック教会も協力すべきと主張していることを明らかにすることができた。 第二に、1930年代中葉の日本カトリック教会の反共産主義について分析・考察を行うことで、「防共」としての日中戦争という認識を支える土台を抽出しようとした。その結果、日本政府が国内において行った共産主義弾圧を教会は高く評価し、防共に関して政府への信頼を強める一方、同時期に教会自身が軍部や日本社会から迫害を受けていたことから、日本カトリック教会が日本にとって役立つ存在であることを証明する必要に迫られていたこと、日本政府が外交戦略として「防共」概念を利用したことに対し、カトリックは反共産主義の旗手として長年共産主義と闘っているので、防共の思想的武器としてカトリック教会を活用して欲しいという願いを表明したこと、そして防共は教会が国体に合致した愛国的存在であることを日本政府・国民に対して示すという課題への有効な答えとなり、かつカトリック信徒としても教皇・ローマの求めに応じられるという、教会にとって二重に有効なものであったことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は、当時の教会指導者たちが戦争に向けて信徒たちを精神的・物理的に戦争へと動員し、当時の日本の総動員体制へと同化させていくにあたっての「内なる動員」の論理は何であり、その論理は神学的にどう組み立てられたのか、言いかえれば、カトリック教会における「思想動員」のメカニズムとはいかなるものであったか、という「問い」を核としているが、2020年度は、日中戦争に日本カトリック教会が協力していく論理として、正戦論というカトリック神学、および当時のカトリック教会が教皇回勅を出すなどして信者に求めていた共産主義との闘い、防共が深く関わっていたことを明らかにすることができたため、上記の「問い」に対する答えの一端を明らかにしつつあると考え、順調と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
日本カトリック教会の反共産主義の実態をさらに解明することを目指し、今年度は特に中国における共産主義に関して教会がどのように理解していたかについて、史料を通して明らかにしたい。それと並行して、日中戦争開始後に「カトリック皇軍慰問使」として、「北支」の中国カトリック教会のもとへ行き、日本軍の行動が「正義」であるという軍のプロパガンダに協力した田口芳五郎神父に注目し、神父の中国派遣について、防衛省防衛研究所の史料も利用して、その実態を明らかすることを目指したい。 田口神父は、満州国の「宗教的承認」事案にも関わった人物であり、彼と中国との関係を解明することを通じて、日本カトリック教会が日中戦争にどのように関わったか、日本が中国の状況、特に中国の共産主義に関してどう考えていたか、その一端をより具体的に明らかにすることができると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
イタリア・フランスでの史料調査を2020年3月に行う予定にしていたが、新型コロナウイルス感染症の流行によりヨーロッパへの渡航が不可能となったため、旅費での使用ができなくなったためである。 今年度もヨーロッパでの史料調査はほぼ不可能と思れるため、国内での史料調査の旅費として使いたいと考えているが、これも感染状況によってどうなるかは未知数の部分がある。万が一、国内(主に東京)での史料調査も難しくなった場合、研究に不可欠なラップトップコンピューターが現在5年を経ているため、その買い替えに使用することを計画している。
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