申請者は本研究を通して、1930年代以降において、異質なキリスト教を統制管理し同化したい国家側の欲望と、一神教的要素や教皇への従順など異質性を保持しながらも、仏教や教派神道と同様の扱いを国家から望み、愛国心があると認められたいカトリック教会側の日本社会への同化の欲望が、どのような形で教会の戦争協力につながったのか、という問題を考察することを目的とした。当初の計画では、1940年代の「日本天主公教教団」の活動期をも扱う予定であったが、2年目以降、研究計画を少し変更して1930年代に集中することとした。 従来、1930年代における日本カトリック教会の戦争協力に関する先行研究が極めて乏しいという状態の中で、教会の戦争協力は、信仰の脆弱さや国家権力側からの統制や弾圧による強制といった論点に集約されがちであった。しかし、そうした先行研究は現代の戦争観をベースに考察が展開され、当時の教会が抱いていた戦争に関する神学的思想は何であったかという、その時代の考え方をまず把握するという視点が欠けていた。そこで、まず第一次世界大戦期のフランスを中心とするヨーロッパカトリック教会の戦争に関する神学思想、特に「戦争の神学」と呼ばれるものがどのように日本の教会の戦争観に影響したか、特に「戦争の神学」が30年代~40年代の日本の戦争言説にまで影響を及ぼしていることを明らかにした。その後、20年代、30年代の教会にとって、共産主義の問題が大きいことから、教会の共産主義言説の分析に着手し、日中戦争への協力が教会の反共産主義と深い関係があることを明らかにできた。 2022年度は学科長職およびカトリック名古屋教区設立100周年関連の仕事のために大幅に研究時間が削減され論文等を公表できなかったが、現在、教会の反共産主義言説に関する論文を執筆中で23年度中には公表する予定である。
|