本研究の最大の目的は、19世紀フランス思想における「社会(的なもの)」を、統治の根拠たるべき「理性」との関連から検討することである。それは言い換えれば、「統治の根拠を社会からいかにして引き出すか」という問いでもある。なお正統性の根拠の「意志」から「理性」への転換や、統治の合理化といった発想は、19世紀の自由主義に広く共通するものであったが、この統治の合理化という問題意識と19世紀における社会的なものの前景化との連関が、本研究の出発点となった関心である。 より具体的な対象としては、ピエール=ジョゼフ・プルードン(1809-1865)の思想について、同時代のリベラルを補助線としつつ検討する。プルードンは一般的に社会主義者とされるが、恣意的な支配としての「専制」への警戒や、国家権力の肥大化に対する批判などの点で、むしろリベラルとの共通性が大きい。 プルードンの理性概念についての研究は平成30年度中にかなりの程度進展し、おおよその見通しを得ることができた。つづく平成31年度(令和1年度)は、プルードンおよびA・コントの家族論について集中的に検討した。一般的にきわめて合理主義的と言われるプルードンの思想にあって、家族における愛の問題は、その合理主義の限界を示すものとして意義がある。 令和2年度に引き続き令和3年度もコロナ禍により出張等は行えず、研究の取りまとめと公表の期間とした。具体的な成果としては、単著『プルードン 反「絶対」の探求』(2022年、岩波書店)を刊行した。同著書のうち、本研究の成果に特に深く関わるのは第4章・第5章である。
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