研究課題/領域番号 |
18K00097
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川出 良枝 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (10265481)
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研究分担者 |
前田 勉 愛知教育大学, 教育学部, 特別教授 (30209382)
伊東 貴之 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (20251499)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多様性 / 比較思想 / ヨーロッパ / 中国 / 日本 / 文化接触 / 初期近代 |
研究実績の概要 |
日中欧の初期近代における他者認識・対外認識を分析し、世界の多様性についていかなる議論が展開したかを比較の観点を導入しつつ討究するというのが本研究課題の目的であるが、本年度においても各研究者が自分の管轄する地域における問題状況についての理解を深めた。 まず川出は、思想史の方法論についての再考を進め、ケンブリッジ学派方法論(Q.スキナー等によるコンテクスト主義)について書評という形で刊行した。最も中核的な仕事としては、モンテスキューの中国観を論じた英文論文(Bloomsbury社刊行の論文集への寄稿)を執筆したが、刊行が2021年5月を予定しているため今年度の成果申告には間に合わなかった。前田は軍事と文化という、対外認識を論じる上で避けて通れない問題、および江戸から明治にかけての教育制度の変遷についての思想史的考察を発表した。伊東の「礼教」の浸透、一般化、発展―-中国を中心とした現代東アジアの事例文化的発展」は本研究課題の本質をなす重要な論文で中国語で発表された。また、書評という形ではあるが、徳川時代の文明観、民族(エスニシティ)観について考察を深めた。予定していた国際学会があいついでキャンセルされる中、学会発表は手薄とならざるを得なかったが、そうした状況でも伊東が台湾で開催されたオンライン・シンポジウムで明清思想における「合意と共生」という本研究課題にとって最も重要なファクターについて、中国語により報告したのは大きな成果である。 以上のように形になった成果とは別に、本年度は、3名の研究者がそれぞれの地域において、他者との交流における「客人」の概念、とりわけ客人に対する「礼」や「歓待」という問題についてどう考えられたかという共通のテーマについて討究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題はヨーロッパ、中国、日本のそれぞれの地域における他者認識、多様性認識を討究し、それを比較するというものである。最終年度である20年度は、研究会を開催し成果を持ち寄り、比較の作業を進める予定であったが、残念ながら新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、3名が一堂に会して議論を深める場が制約された。もっぱらオンラインでの交流にとどまり、かつ予定していた海外の学会での成果報告も不可能となった。とはいえ、困難な状況において、3名の研究者は自分の専門分野での討究を一段と深化させ、また分担者の伊東はオンライン会議システムを利用しての海外交流においても成果を上げた。パンデミックという予想外の事態ではあったが、個別分野での研究の進展としては順調であったと言える。他方、本来予定していた総合という課題が果たせたなかったことは反省点であるが、研究チームとしては、もう少し時間をかけ、またオンライン会議システムの積極活用といった手段をくみあわせて本来の目的を達成すべきだという方針も確認された。以上を総合して、概ね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスの感染拡大により、当初予定していた研究計画を一年間延長することが認められ、本年度達成できなかった課題、すなわち各管轄地域における問題の析出を踏まえて、それらを比較検討し、総合するというまとめの作業を最大の課題として積極的に推進する。感染状況に予断を許さない状況であるため、国内外の学会やシンポジウムでの報告、あるいは本科研プロジェクトが主催する研究会の開催は、対面ではなくオンラインとなることが予想されるが、柔軟に対処していきたい。その際、研究の性格上、英語・中国語など、広く外国語により発信することも継続して心がけていきたい。 また、文脈を異にする各地域を安易に比較し、図式化することについての不毛さについて研究グループ内で真剣に討議されているため、あるべき比較の方法についての模索も継続して行う。各研究者の個別の研究課題は今年度も継続して推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究者3名が集う国内でのシンポジウム、および国際学会での報告のために計上した旅費が新型コロナウィルスの感染拡大のため使用できなかった。対面での研究会開催、出張の可能性を継続して探るが、感染動向に予断を許さないため、オンライン会議システムを用いての研究会開催、学会への参加をおこなうことも予定している。そのための技術的アシスタントへの謝金、必要な機器の整備などに研究費を使用する。一方、研究の途上で必要性が判明した資料も少なからずあり、購入の他、デジタル複写の依頼などの手段によって、資料調査も継続して行う。海外発信のための外国語の校閲なども積極的に行う。
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