研究課題/領域番号 |
18K00099
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高久 恭子 (中西恭子) 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (90626590)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 西洋古典受容史 / 西洋古代宗教受容史 / 新プラトン主義 / 初期キリスト教 / 神話の継受 / 古代地中海世界 / 古代ローマ宗教史 / 古代末期の地中海世界宗教史 |
研究実績の概要 |
2018年度は、本プロジェクトに関連する報告を重点的に行い、広く問題関心の共有に努めた。 日本ユダヤ学会シンポジウムでは報告「ローマ帝国の『キリスト教化』とユダヤ教」(学習院女子大学・5月)を行った。3世紀から5世紀の地中海世界の宗教論の系譜に関する報告を日本宗教学会での「古代末期の新プラトン主義思想における宗教表象と宗教史の回顧」(大谷大学、9月)、同志社大学CISMOR研究会での「古代末期における『神話』の回顧と一神教文化」(12月)、ギリシア・アラブ・ラテン哲学会での「異教的一神教とは何か」(早稲田大学、2019年3月)で行った。4世紀のキリスト教と規範的な女性信徒の育成をめぐる問題は、科学研究費プロジェクト「イスラエル国ガリラヤ地方の新出土シナゴーグ資料に基づく一神教の宗教史再構築」(17H01640)シンポジウム「宗教的実践知の獲得・伝授と教育」での報告「古代末期の宗教的実践知としての修徳思想 キリスト教と女性の場合」で紹介した。 慶應義塾大学文学部連続講義「地中海の魅力」での招待講演(6月)では古代ローマ宗教像とその現代的受容を概観し、カウンターテナー研究会(12月)での招待講演「『古代末期』の教会で『歌った』のは誰か?」では4世紀から5世紀のキリスト教聖歌作家の生態を紹介した。 『ルネサンス・バロックのブックガイド』(ヒロ・ヒライ編、工作舎、2019年)にL. D.レイノルズ、N. G. ウィルソン『古典の継承者たち ギリシア語・ラテン語テクストの伝承史にみる文化史』(西村賀子・吉武純夫訳、国文社、1996年)とS. K. ヘニンガーJr.『天球の音楽 ピュタゴラス宇宙論とルネサンス詩学』(山田耕士ほか役、平凡社、1990年)の紹介を寄稿した。 ファンタジー文学と近現代日本の文学・思想における古典受容と世界文学の関係をめぐる依頼原稿を執筆する機会にも恵まれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3世紀から6世紀の地中海世界の宗教思想の「知の歴史」とその受容史に関する需要を鑑みて、2018年度は従前からの課題であったユリアヌス帝と同時代の宗教史に関する単著の構想とともに、大幅に研究方針と研究計画を見直し、(1)「ローマ帝国のキリスト教化」研究と宗教史叙述の現在 (2) 初期キリスト教詩歌史研究の現在 (3)「異教概念」研究の現在 (4)「古典の伝統」の受容史研究の現在 (5) 313年以後のローマ帝国の宗教とジェンダー の主題に絞って書誌学的調査を行った。 2018年10月末から11月初旬にかけて、ロンドン大学先端研究所内古典学研究所図書館において集中的に文献調査を行った。科学研究費プロジェクト「イスラエル国ガリラヤ地方の新出土シナゴーグ資料に基づく一神教の宗教史再構築」分担者としての研究課題でもある「2世紀以降のローマ帝国における多宗教の共存と「一神教」的思考」の調査も兼ねている。この結果、紀元後3-6世紀のキリスト教の宗教知識獲得の場の実相と教育論・儀礼論(特に聖歌論・詩篇唱の実践)における先行文化との接触の実相や、「ローマ帝国のキリスト教化」の過程を叙述するさいに課題となる「異教」「一神教」などの宗教概念の形成過程や宗教史の叙述理論に対しても検討と紹介を行う必要があることが判明した。新プラトン主義系史料とキリスト教史料に絞っても慎重な検討が必要である。 古代末期地中海世界における宗教史と女性の参与を研究するさいに、主な史料としてキリスト教史料を用いるとき、「規範的女性信徒」の養成の挿話を再話するにとどまらない工夫が必要であることが判明した。広く宗教史とジェンダーの問題に視野を広げて、背景にある実践知の状況、家族史・服飾史・医学史・公衆衛生史と宗教史の関わり、「異教」イメージのなかのジェンダー表象など、このテーマに関して検討すべき課題は多い。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度には、本プロジェクトのテーマとして当初予定していた紀元後3世紀から6世紀にかけてのキリスト教著作家にみる「神話」叙述の研究よりも、広い意味での古典像・古代宗教史像の受容史関連の研究・報告に関わる機会が増えた。2019年度以降は古典受容史像のなかの「異教古代」と「古代末期の宗教」像および「古典」への視座の総合的研究につなげる方針を模索する。 その端緒として、2019年5月には科学研究費プロジェクト「アリストテレス論理学の再帝位を通した新たな自然主義的倫理学の構想」(17H02257)、「日本関係の近世ラテン語文学―成立の文脈と未校訂写本の研究―」(19K00503)と本プロジェクトの協力事業としてワークショップ「日本における西洋古典受容」(慶應義塾大学日吉キャンパス)を開催し、小千谷市立図書館および津田塾大学図書館蔵の西脇順三郎旧蔵書調査の成果を生かし、近現代日本語詩歌のなかの「西洋古典」の受容史に関する報告を行う。このワークショップ以後も日本語近現代文学における西洋古典受容に関しては、今後の論文・単著化につなげる方針で引き続き調査を行う。今後の研究の方向性を見極めるため、中世から初期近代にかけての「異教」表象・「古代末期の宗教」表象に関しても書誌学的調査を行う。 新プラトン主義系史料およびキリスト教史料における在来の神話・宗教・儀礼の回顧の系譜の解明に関しては引き続き調査を行い、2018年度の成果を生かして論考を発表する機会をもちたい。2019年度には従前からの課題であったコンスタンティヌス朝の宗教史に照らしたユリアヌスの評伝を主題とする新著を脱稿し、「ローマ帝国のキリスト教化」叙述と「異教」概念の再検討に関する論考につなげる。史料の紹介も可能であれば行う。聖歌作家の生態に関する研究と古代末期の宗教史とジェンダーに関する研究については適切な発表形態を模索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年2月にロンドン大学先端文化研究所内古典学研究所図書館での海外文献調査を予定して予算残額を確保していたが、2019年1月に急逝した梅原猛氏の古典受容に関する依頼追悼論文(「日本のエリアーデ 梅原猛の思想と現世」『ユリイカ』2019年4月増刊号「総特集・梅原猛」(51-5、736号)、2019年3月、164-187頁)のための調査を急遽行う必要が生じた。また、海外文献調査を中止した。 今年度はロンドン大学先端文化研究所内古典学研究所図書館およびウォーバーグ研究所図書館における海外文献調査を複数回予定している。2019年度使用額はその費用にあてたい。
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