パンデミックの継続のため2021年度も海外渡航が不可能になり、研究期間をさらに1年延長した。本計画の最終年度となる今年度は、古代末期地中海世界宗教史研究の射程をめぐる現況を主に口頭発表・講演を通して提示した。 『キリスト教文化事典』(キリスト教文化事典編集委員会編、丸善出版、2022年8月)では、「教父文学」「中世のキリスト教詩」「讃美歌の翻訳と新体詩」「近現代詩歌とキリスト教」の項目を担当した。音楽の実演にかかわる読者も想定した上で、古代キリスト教文献の枢要をなす「教父文献」と中世盛期に至る「キリスト教詩史」の射程を把握しかつ理解する手がかりを提示した。「讃美歌の翻訳と新体詩」「近現代詩歌とキリスト教」では聖歌史研究とアダプテーション史の架橋による概説を試みた。 2021年に白水社から上梓した翻訳書、エドワード・J・ワッツ著『ヒュパティア 後期ローマ帝国の女性知識人』の紹介文と翻訳記を白百合女子大学キリスト教文化研究所所報『クロニカ』47号(2022年6月)と『ジェンダー史学』18号(2022年10月)に依頼原稿として寄稿し、古代末期の新プラトン主義のなかの女性知識人研究の動向を紹介した。 科学研究費助成事業基盤研究B「中世・近世のイスラム圏と西欧における魔術的知の交流史」(魔術研、22H00610)の招聘を受け、講演「古代ギリシアの神働術」を行った(2022年7月30日)。古代の錬金術・魔術に言及した上で、古代末期の新プラトン主義者による宗教史・儀礼史の回顧と教団宗教外の霊性実践としての神働術を紹介した。方法論懇話会シンポジウム「宗教=歴史実践をひらく」(2022年9月7日)、2022年度日本基督教学会関東支部会シンポジウム「キリスト教とダイバーシティ(ジェンダーの観点から)」(2023年3月22日)でも、古代末期の「生きられた宗教」研究の課題について問題提起を行った。
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