研究実績の概要 |
本研究課題は1691年に刊行されたアドリアン・バイエによる『デカルトの生涯』全2巻の翻訳・注解を行うことによって、新しい哲学としてのデカルト哲学がどのように理解され、受容されたのかということに焦点をあてながら、近代社会の出発点を成す17世紀におけるヨーロッパ全体にわたる学問を取り巻く社会環境の実像を明らかにしていくことにある。原著者のバイエはカトリックの司祭で、書誌学者として生涯、多くの緻密な評伝を書いたことで知られる。今回の『デカルトの生涯』は伝記的な記述とともに、デカルトの書いた著作・書簡・未刊の遺稿などをすべて渉猟し、思想内容を精密に描くとともに、人間関係や社 会環境を細かく記述している点に大きな特色がある。その記述によって、いかにしてカルテジアニスムが生まれ、受容されていったのかが具体的に明らかにされている。当初翻訳にあたっては2012年に刊行された1巻本(Editions des Malassis)を底本とする予定であったが、テキスト上の問題が多いことが判明し、1691年刊行の原版(OLMS,1972のリプリント版)に基づいて、綴りを現代風に改めながらテキスト全体を確定する作業も行うこととなった。そうした作業も踏まえながら、翻訳・注解を研究代表者の香川のほか、研究協力者として日本国内の山田弘明(名古屋大学名誉教授)・小沢明也(東洋大学非常勤講師)・今井悠介(慶応大学訪問研究員)、フランスのアニー・ビトボル=エスペリエス博士(パリ・デカルト研究センター)が参加して行い、予定の期間に終了することができた。令和3(2021)年度科学研究費助成事業(研究成果公開促進費)(学術図書)の交付を受けることもでき、予定通り工作舎から2021年度内に上下2巻本として刊行できることになり、現在、最終原稿を用意しているところである。
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