2023年度は、コロナ感染が終結したため、海外との研究交流を復活し、本研究をまとめる活動を行った。 2023年4月には、前年度の研究成果であるフェミニズムにおける労働概念の射程について、他のフェミニズム研究者(藤原千沙、安川悦子)とともに「フェミニズムの射程」というテーマでシンポジウムを行った(名古屋哲学研究会2023年度シンポジウム)。 2023年12月には、2020年からコロナ禍のために中断していた海外研究者との交流を再開し、ドイツのAlanus大学のリーバーマン教授を訪れ、スイスの東スイス・ザンクトガレン大学のマーダー講師を訪れ、それぞれとベーシック・インカムと持続可能な社会に関する意見交換を行い、翌年3月開催予定のワークショップについて打ち合わせた。 2024年3月には、本基盤研究のまとめとなるワークショップ「〈持続可能な社会〉と〈ベーシック・インカム〉:共通の基礎」をドイツのデュッセルドルフ大学で開催した。リーバーマン氏はBIを持続可能性社会と関係づけることの独自性と困難さを指摘したうえで、BIがもつ可能性について報告した。マーダー氏は、スイスにおける二酸化炭素の負の排出技術導入の状況を紹介した後に、その社会的合意形成に関するBIの意義と可能性を展望した。別所は、ベーシック・インカムの思想史的起源をなすペインやスペンスなどのBI構想の基礎には土地・自然の共同所有権思想があったことを思想史的にたどり、他方で持続可能性という概念も地球自然環境の共同所有・コモンズ思想を基盤として発展してきたことを明らかにし、BI研究と持続可能性研究の連携の必要性を説いた。島田氏(デュッセルドルフ大学)の司会による全体討論においては、BIと持続可能性を媒介するコモンズ思想について研究する意義が確認され、同時にそこに潜む困難性と危険性についても意見交換がなされた。
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