本研究の目的は、第一に、17・18世紀の辞書や『百科全書』に掲載された、宗教改革期の生産論争の中に登場したとされる〈エネルギー派〉という宗派の実態を探り、彼らの神学思想に見られる「エネルギー」の意味を解明することで、ルネサンス期のエネルギー概念の意義と射程を明らかにすることであり、このエネルギー概念を踏まえて、第二の目的は17世紀のイギリス医学における「エネルギー」の用語の定着過程とその波及を辿ることを定めていた。 第一の研究からは、当時の文献の分析により、「エネルギー派」という宗派は実際には存在せず、反宗教改革派が改革派を非難する際に対立派として捏造した虚構の派閥であったことが判明した。ただし捏造とはいえども、「エネルギー」という語自体はカルヴァンが忌避しつつも、当時の改革派の神学思想の鍵概念となりうる可能性を秘めた言葉であったのは間違いない。そこで、カルヴァンと同時代を生き、カルヴァンからもカトリックからも異端として糾弾されたミシェル・セルヴェの神学思想に着目すると、「エネルギー」の語が、彼の展開する医学的知見に基づいた神学思想のなかで、重要かつ新しい意味合いをもった概念として用いられていることが観察できた。そのため、当初のイギリス医学に関する研究計画を変更し、最終年度はミシェル・セルヴェにおける神学的エネルギー概念から医学的エネルギー概念への転位をテクストの分析を通して解明した。 研究成果としては、最終年度の2本(うち1本は2023年度刊行予定)を合わせ計5本の紀要論文を発表した。
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