研究課題/領域番号 |
18K00110
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小野 文 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 准教授 (00418948)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ソシュールとバンヴェニスト / 言語学的概念と翻訳 / ことばにおける主体性 / 中動態 |
研究実績の概要 |
2019年度は、フランスにおける研究資料調査で、①バンヴェニストとコペンハーゲン学派、プラハ学派などとの直接的な繋がりを確認できたこと、②バンヴェニストの20~30年代の動きを調査できたこと、日本で「中動態」に関する共同研究を立ち上げたことで、③バンヴェニストの1950年代前後の「言語 langue」概念を明確化できたことがあげられる。 ①に関しては、コペンハーゲン学派の言語学者(ブロンダルやイェルムスレウ)のフランス語資料を入手し、検討することができた。またプラハ学派の研究者とコンタクトをとり、プラハ国立資料館にあるプラハ学派関連の資料を入手することができた。後者の資料に関しては、検討はこれからである。 ②バンヴェニストの20~30年代の動きを、フランスの現地調査で部分的に追跡できた。特にナチズムの影響が色濃くなる30年代後半について、ヨーロッパの数々の学術雑誌に発表された彼の比較言語学の論考から、インド=ゲルマン学への批判的な見方を抽出する作業を行った。 ③近年、現代思想において注目を集めている「中動態」の概念とその議論は、バンヴェニストの「中動態」に関する論文を基盤の一つとしている。所属大学でたちあげた共同研究の場において、言語学における「中動態」概念の研究史について、またバンヴェニストの「中動態」の定義を再検討する作業を行った。
研究発表としては、以前に研究集会等で発表したものを論文の形にまとめ直し、論文集や学術雑誌に発表した。ソシュールとバンヴェニストの2人に関して、日本での受容の問題と、言語学概念の翻訳が抱える一般的問題について、主にフランス語で発表した(詳細は「研究発表」の項参照)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画全体で見ればおおむね順調に進展しており、成果も出始めているが、一部、遅れが見られるところもある。 本研究課題の中心問題である、バンヴェニストにおける「話す」という思想に関しては、中動態概念の考察を深めることで、かなり本質的な問題に近づけたと感じている。ただ12月以降、予定していた研究者との交流や研究会などが延期・キャンセルされ、とりわけ1・2・3月には研究資料収集や研究集会の動きが取れなくなったことから、計画の一面に遅れが生じてきている。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス禍のさまざまな影響のもと、研究時間をできるだけ確保することが重要になってくるだろう。 特に問題となってくるのは資料収集・閲覧の面である。以下の問題点があげられる。 1)ヨーロッパ大半の図書館・資料室が閉館。オンラインのカタログに関してもアクセス不可となっていること。夏に計画しているフランスにおける資料収集に関しても、計画を延期せざるをえないかもしれない。同じく国内での資料収集に関しても、現在ほとんどの大学図書館が閉館している。 2)自宅から書籍資料を購入する場合、検収印が受けられない。 今後、状況を注視しながら、研究をなるだけ計画通りに推進できるよう、力を尽くすつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度はフランス語での論文執筆は校正作業のみだったため、校閲代の支出がなく、その分が残額となっている。次年度には研究発表の校閲代として使用する予定である。
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