研究課題/領域番号 |
18K00110
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小野 文 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 准教授 (00418948)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バンヴェニスト / 中動態 / 「話す」行為・経験 |
研究実績の概要 |
言語学者エミール・バンヴェニストの中動態概念に関する論考を研究会で発表し、またそれを他の発表者の論考とともに『言語の中動態、思考の中動態』(小野 文・粂田 文編、水声社、2022年2月刊行)という論文集として出版することができた。この論文集に載せた拙論「バンヴェニストにおける中動態」(同書、p. 17-57)のなかで、バンヴェニストの「動詞における能動と中動」(1950)を詳細に分析し、特に中動態の概念がバンヴェニストの「主体性」概念とどう繋がるのかを検討した。 私見では、この中動態の概念は、本研究の主眼であるバンヴェニストの「話す」行為・経験の概念の解明に直に結びつく。複数の箇所で、バンヴェニストは「話す」という印欧語がもともと中動態であることを指摘しており、またこの「話す」行為と経験を語る際に、バンヴェニストはしばしば代名動詞(中動態の名残)を用いているからである。それゆえこの中動態に関する論考は、バンヴェニストの言語思想における「話す」行為の多面性を考える本研究のなかでも重要な位置を持っている。 また論文集のもととなった研究集会では、「中動態」だけでなく、バンヴェニストの「主体性」に関して研究発表を行い、文学・精神医学・哲学の領域の研究者たちから貴重な示唆を受けることができた。 今年度はフランスでの調査旅行が再開できる見込みのため、できればパリ国立図書館でバンヴェニストの草稿資料を閲覧し、また第二次大戦中のバンヴェニストの足取りを辿る試みを続けたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍のため資料収集のための海外渡航ができず、日本国内で手に入るだけの資料閲覧(オンラインで閲覧できる資料や公刊されている資料)に留まることになり、実質的なバンヴェニスト草稿資料の閲覧や彼の戦時中の足取りを辿ることは不可能であった。これが研究の遅れの主たる理由である。 急遽、当初の計画を変更し、中動態に関する研究会での成果をまとめ、論文集にまとめることとしたが、当初の計画から鑑みると若干の遅れが出ている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は海外渡航が許される状況となりつつあるので、資料収集を再開し、また収集できた資料の分析と考察を進めることとしたい。特にバンヴェニストにおける「話す」行為・経験について、研究代表者の考察はまとめの段階に入りつつあり、2022年度は「「話す」という動詞は中動態である」という内容の論考を執筆し、研究成果を発表していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため引き続き海外での資料収集・調査ができなかったことによる。2022年度は調査旅行を再開し、割り当てられた額の予算を使い切る予定である。
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