研究課題/領域番号 |
18K00111
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
小森 謙一郎 武蔵大学, 人文学部, 准教授 (80549626)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 内面の自由 / 異端 / モンテーニュ / アウエルバッハ / サイード / ユダヤ人問題 / パレスチナ問題 / アーレント |
研究実績の概要 |
本年度の研究目的は、モンテーニュが置かれていた地政学的背景を「異端」との関連をもとに解明することにあった。焦点をあてたのはトゥールーズとボルドーである。トゥールーズは、異端カタリー派の政治的拠点だった。アルビジョワ派とも呼ばれた彼らに対し、教皇インノケンティウス3世は異端審問所を整備するとともに、アルビジョワ十字軍を差し向けた。モンテーニュは『エセー』に付した最晩年の加筆のなかでアルビジョワ派に言及しており、それはスペインにおける1492年のユダヤ人追放令とポルトガル王の動向に関する記述の後に続いている。15世紀末以降、イベリア半島のユダヤ人は異端審問所のターゲットになっていくが、モンテーニュの実母はそのスペインからトゥールーズに逃れた商人を祖父として持つ。そしてモンテーニュ自身は、イベリア半島出身のユダヤ人が数多く居住していたボルドーの法廷で働き、のちには市長を務めたのだった。こうしてみると、カタリー派に関する最晩年の加筆を含む一節は、モンテーニュ自身の来歴を遠回しに語っているように思われる。その観点からトゥールーズとボルドーを経由して『エセー』の異端性が形成されていることを示した。 また本研究では、1492年の出来事をユダヤ人問題とパレスチナ問題の原点として捉えている。そのため、モンテーニュを論じるアウエルバッハ、アウエルバッハを論じるサイードに着目し、追放、亡命、離散という経験から逆説的にも導き出される「内面の自由」について、それが近代的な同一性には還元されないアクチュアルな意義を持つことを示した。 さらに前年度の研究の延長線上において、パレスチナ問題に関するアーレントの姿勢を「学問の自由」という観点から考え直す作業を継続し、忖度、改竄、修正主義という現代的な光景にも歴史があることを示した。また執筆依頼を受けた『アーレント読本』第I部第2章の推敲も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
年度末にコロナ禍の影響はあったものの、本年度の研究目的を達成できたこと、また前年度からの積み上げ・継続という点でも発展的な成果をあげることができたことから、当初の計画以上に進展していると言うことができる。とくに1492年以降のヨーロッパからユダヤ人問題を経てパレスチナ問題に至る流れについては、モンテーニュに加えてアウエルバッハとサイードに着目したことで、新たな思想史的観点を切り拓くことができたと考えている。またスピノザの先行者としてのモンテーニュという点についても、一定の知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
上述の成果と進展を引き継ぎながら今後も研究を進めていく。コロナ禍の影響は残るとしても、当初の計画通り、今後は主として「主権」に焦点をあてる。1492年以降の世界史は「主権」を軸に展開されているといっても過言ではない。だが、主権はまた「自由意志の理念」でもある。こうした主権的自由、あるいは主権的意思とは異なる「内面の自由」について、当初の計画以上に進展してきた部分を活かしつつ、モンテーニュ以降の思想史的展開を踏まえて考察する。最新の国際情勢や国内外における関連分野の研究動向にも留意する。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に計画していた調査出張を新型コロナの影響で取りやめたため、次年度使用額が生じた。様子を見つつ、2020年度に旅費として使用するか、必要となる資料・物品等の購入に充てる予定である。
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