研究課題/領域番号 |
18K00115
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
廣岡 浄進 大阪市立大学, 人権問題研究センター, 准教授 (30548350)
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研究分担者 |
友常 勉 東京外国語大学, 大学院国際日本学研究院, 教授 (20513261)
関口 寛 四国大学, 経営情報学部, 准教授 (20323909)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 部落差別 / 人種主義 / 国際労働力移動 / 情報化 / 研究倫理 / 部落改善 / 日系人 |
研究実績の概要 |
研究代表者の廣岡は、台湾の東呉大学において、本課題を、移民の送出地の現代史に接続する試論を口頭報告した。 さらに、本研究が部落差別の今日性とも深く関わる性質を鑑み、研究成果の公表のありかたをめぐる議論に加わり、国公立図書館や博物館、公文書館、大学等研究機関による充実が著しいデジタルアーカイブスにおいて、とくに絵図(古地図)の中で近世被差別民の居住地が賤称記載されたものがどのようにウェブ上に公開されていて、今後どのような議論が求められるのかについての問題提起に着手した。これらは、申請調書の「人権の保護及び法令等の遵守への対応」に記載した内容に即して、この検討を先行させたものである。 すなわち、近年、情報化の急速な進展に伴って、被差別部落の所在地情報がわかる無料データベースを構築し、あるいは部落解放運動の関係者の個人情報をさらすウェブサイトが構築されている。これは、かつて大糾弾となった『部落地名総鑑』同様に部落出身者への身元調査を煽動するものだとして社会的に指弾され、訴訟にも発展している。その一方で、部落史研究をめぐっても、本節冒頭に指摘したような事態に介入できる研究倫理の再構築が求められているという声があがっている。 本研究は、先行する多くの移民史研究と同様に、個々人の移動をトレースする作業、すなわち出身地や就労実態などを可能な限り探る努力を排除できない。その一方で、現にある部落差別への懸念から秘匿を求める反応が出てくることもありうるという部落史研究に固有の論点を抱え持っている。しかし本研究も多様なレベルで作成された日米のデジタルアーカイブスの活用が不可欠である。そのため、研究成果をどのように社会に還元するのか、現在の日本社会に文脈づけて問題提起していくのかという問いに、調査と同時進行で向きあい、研究の領野をどう確保できるのかを考える必要があると考えたからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者が所属大学を移った事情の外、分担者がそれぞれに代表者としての科研費研究を進める立場にあり、さらに3名全員がそれぞれ外の共同研究にも参画している関係等もあり、申請段階で計画していた1年目の渡航調査を延期した。ただし、分担者の関口は、本課題とは別の研究費で独自に渡航し、カリフォルニア州で聞き取り調査を行ない、また、2018年12月に福井県美浜町で聞き取り調査を実施した。その進捗を見守りつつ、各自が日本国内での文献調査などでの準備を進めることとして、共同調査そのものは2年目に延期した。 日本国内の文献史料については、アメリカ移民の現地日本語刊行物は近年かなりの復刻出版が進んでおり、国内所蔵機関が限られるが、それらの把握にも努めた。 情報化と部落史研究をめぐっては、本報告書に記載の成果のほか、全国部落史研究会と共催で2019年2月18日および19日に研究会「情報化時代における部落史研究の課題」を開催した(同会会員にのみ公開、一般には非公開)。 また、分担者の友常は、国際労働力移動の視点から、問題設定をとらえなおして、現代世界におけるグローバルな労働力移動を見据えながら、入管法の改定という情況に接続する作業を開始した。すなわち、2018年11月20日に「オリンピック開催地で何が起こっているのか 平昌2018→パリ2024」のテーマで、オリンピックを手がかりとした国際移民労働についての国際ワークショップを行った。報告者は以下のとおり。Seowon(photographer, Haebangchon)、Eunseon(Listentothecity)、Hyeon wook(Listentothecity)、佐々木夏子、小美濃彰(東京外国語大学大学院博士後期)。これによって国家プロジェクトにともなう、マイノリティの労働移動の現在および歴史経験についての知見を深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に実施を計画していたアメリカ調査は、上記の事情から、今年度に予定している。その成果によって当初計画からずれるが、3年目での渡航調査を検討する。進捗情況次第で、当初の3年計画を延長することも視野に入ってくると思われる。 国内調査については、それぞれの調査成果を突きあわせて、情報を統合する作業が必要となるだろう。また、渡航先の一次史料だけでなく、送り出し地の特定が進めば、日本側の自治体史などの検討も進める。とくに、当該時期には部落改善運動が呼びかけられているのであり、そうした内務行政の政策にも留意する。 戦時中の日系人収容キャンプ関係のレポートの調査も進んでいないが、それらの分析も課題として掲げておく。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り、アメリカ渡航調査を延期したことにより、その旅費相当額を繰り延べした。次年度に旅費として支出する計画である。
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