研究課題/領域番号 |
18K00119
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
外山 紀久子 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (80253128)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エネルギー / 気 / 実験演劇 / ポストモダンダンス / 身体論 |
研究実績の概要 |
「舞踊の定義を拡大した」とされるポストモダンダンスの理解には、舞踊史の内部ではなく領域横断的文脈の分析が必要であるため、1960年代以降の欧米の実験演劇について比較研究を行なった。特にグロトフスキの「持たざる演劇」の系譜の中でバルバと国際演劇文化人類学の活動に注目し、彼がアジアの演劇の伝統に啓示され最重視した俳優の「現前(presence)」「エネルギー」とはどのようなものかを探った。そこから摺り足をはじめとする歩行の身体技法の問題に展開し、パクストンの歩く/立つだけの舞踊、フルトンの「歩行芸術」、オリヴェロスのディープ・リスニングを伴うワークショップ、仏教系瞑想や気功等々の事例を参照しながら、「歩くこと」を焦点としてその舞台芸術の内と外での多様な様態を検討した。中間報告として、日本科学協会の第13回科学隣接領域研究会、また富山大学芸術文化学部主催の研究会で発表した。 さらに、今年度の研究では、上演芸術とその場の問題をもう一つの焦点とし、演者や観客/聴衆が特定の場・時空・環境にあってどのように反応しているのか、感染症拡大下での無観客ライヴの事例を含め、身体とその環境がセットになって作用している状況の多様な事例を探ることを試みた。背景となる「気」ないしそれに類する微細な生命エネルギーをめぐる古来の思想(生気論的宇宙観や万物感応の自然魔術等々)を参照し、非二元論的・生命論的な自己および世界把握の有効性についても考察を進めた。オンラインのシンポジウム「臨場感の多面的考察:パンデミック時代をきっかけに」でその成果の一端を発表し、科学隣接領域研究会のブログで関連する問題を取り上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
主として健康上の理由とコロナ禍での行動の制約のため、ワークショップ等の参与観察や国内外への出張調査を行うことができなかった。他方、これまで相対的に研究の手薄であった前衛演劇やアジアの伝統芸能との関係について踏み込んだ考察を行う手がかりが得られたこと、ポストモダンダンス以外の事例にも広範に考察を進める方向が見えたこと、またオンラインでの研究会やシンポジウムでの研究交流の機会を利用できたこと、などから、一定の研究進捗が見られた。当初の計画を適宜修正しながらではあるが、次年度に最終的な成果報告をまとめることは可能と考える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度から積み残している主要な論点(現前とトランス)を中心に文献調査を継続するとともに、本研究の前提となる「生命」について、ポストヒューマン研究やエコクリティシズムの主体批判、デリダ、ドゥルーズ、ケージ、テュードア、カニンガムにまでその影響が及ぶアルトーの身体論、マランやソンタグの病む身体の問題その他を参照して再度検討を加える。 引き続き海外での学会やワークショップ参加は見通せない状況であるが、オンラインでの研究交流やイヴェント参加といった機会をフルに利用して研究の深化発展に努め、これまでの成果をまとめて書籍として出版する準備を加速する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症拡大と健康問題のため、当初予定していた出張調査ができなかった。その分文献資料等の入手に努めたが、翌年度に可能であれば出張調査やシンポジウム開催を行い、状況次第ではオンラインでの会合等で対応する。
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