研究課題/領域番号 |
18K00120
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三浦 俊彦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10219587)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 芸術の美的定義 / コンセプチュアルアート / レディメイド / ファウンドアート / 美的観点 / 芸術の全体論的定義 / 物語芸術 / 本質主義 |
研究実績の概要 |
芸術の美的定義の定式化の試みとして、「芸術の美的定義:その形式化からわかること――M.ビアズリーの枠組みで」(『美学芸術学研究』第37号)を発表するとともに、実在の哲学者の人生を一種の物語芸術と見立てる「レディメイド」「ファウンドアート」作成の実演として、『バートランド・ラッセル 反核の論理学者』(学芸みらい社)を上梓した。この二つは、補い合って、現在進行中のコンセプチュアルアート論の完成に資するものである。 アートワールドにおけるコンセプチュアルアートの占める高い地位は、美的定義に対するほとんど唯一の反例と言えるものなので、これを美的定義の論理の中に回収できるかどうかが美的定義の可能性を論ずる鍵となる。上記成果のうち前者は、美的定義の論理構造を記号論理学でパラフレーズすることによって形式的な方面から美的定義の分析を試み、後者は、美的観点を取ることの経験的可能性を例証するものである。 この二つの成果を敷衍することによって、さらに、「芸術の全体論的定義」という構想に着手した。全体論的定義とは、芸術をアートワールド内での自律的な定義によって理解するのではなく、芸術以外の諸文化との関連において、上位文化(文明活動)の中での芸術の分業的役割の特定によって芸術を定義しようとする試みである。 この全体論的視点を取るさいのポイントとなるのは、芸術、倫理、宗教、科学などの下位文化ごとの諸要素の間に、貫文化的な対応を発見してゆくことである。同型対応の文化比較をもとにした全体論的定義の整備により、競合する諸定義(制度的定義、歴史的定義など)に対して美的定義が持つ優位性がはっきりするはずである。この見通しは、論文"The Holistic Definition of Art"にまとめた(公刊は2020年度)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「芸術の美的定義」に対するアプローチは、「全体論的定義」「同型対応」という上位概念を利用することを思いついたおかげで、急速に進展している。方法論的な不安は一切なくなったので、あとは定型的な論理分析・言語分析の方向で基本的な探究を進めることができる見通しがついた。
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今後の研究の推進方策 |
「全体論的定義」「同型対応」という上位概念を方法論的ツールとすることの実効性は、論文によって十分証明できているので、その二つの方法をとる理論的動機に説得力を持たせることが必要となる。そのようなメタ分析にある程度の労力を費やして基礎論を固めつつ、コンセプチュアルアートの具体的事例の解釈や再構成などによって美的定義そのものの研究を進めてゆくことが今後の基本方針となる。 また、研究全体の俯瞰によって方向を調整するために、現在進行中の個々の研究を統合して、美的定義に限定しない「芸術の定義」全般について一冊の解説書を上梓することを考えている。
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