研究実績の概要 |
「芸術」の定義、広義には「芸術と非芸術の識別基準」について探究を続け、自然的性質による機能的本質主義、社会的規約による手続き的本質主義、定義を不可能視する反本質主義という3つの立場の対比の根拠を、他分野(倫理学、ジェンダー論など)との同型対応に求める構想を「芸術の諸定義――同型対応による認識に向けて」(2021年7月)で素描した。 基本は、機能的本質主義を最大限保持する立場であるが、その方向性を、ジェンダー・アイデンティティの定義との比較により補強することを試みた。2022年中に公刊予定の二編の英語論文“What is Gender as an Individual Identity?” JTLA(vol.46)と“Emotion and cognition in gender dysphoria” Mukhopadhyay,(Tirtha Prasad and Nagataki, Shoji (eds.), Emotion, Communication, Interaction: Emerging Perspectives,Taylor & Francis Group Publishers, UK.)は、芸術哲学の検証とともに、ジェンダー論もしくは心の哲学に対する貢献をも念頭に置いて書かれた。ジェンダー唯名論と美的機能主義との概念地図上の対応関係が明らかになりつつあるが、修正の必要性が認められ、考察を継続中である。 新たに着手した分野として、芸術制作上の「意図」の分析と、「非芸術の芸術化」の拡張的基礎付けがある。とくに、レディメイドやファウンドアートにおいて通例の「物的対象」だけでなく、「出来事」へ拡張する日常美学・環境美学的根拠の定式化に注力した。その暫定的な成果は、「美的対象としての第二次世界大戦」(『美学芸術学研究』40号)として2022年中に公刊予定である。
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