研究課題/領域番号 |
18K00121
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研究機関 | 跡見学園女子大学 |
研究代表者 |
河村 英和 跡見学園女子大学, 観光コミュニティ学部, 准教授 (50649746)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スイス・シャレー / 木造建築 / 観光・ツーリズム / ハイマートシュティール / ナショナルアイデンティティ |
研究実績の概要 |
本研究に関する論文として、2018年6月にジェノヴァ大学で行われたテーマ型国際会議「La citta'; multietnica nel mondo mediterraneo(地中海世界の多民族都市)」での発表が、論文として2019年内に伊Bruno Mondadori社より刊行できた。その内容は、イタリアでスイス人が営業していた19-20世紀初頭のホテルでは、屋号がスイス風に命名される場合のみならず、その建物もスイスの郷土様式(ハイマートシュティール)やシャレーの影響下にあるものもいくつか存在していたことや、イタリアの一部の地域は気候の類似性から「小さなスイス Piccola Svizzera」と呼ばれる場所があり、そこにある建物はスイス風の山小屋の影響を受けることがあることに言及した。 2019年中に参加した学会のうち、9月にボローニャ大学で行われたイタリア都市史学会の第9回大会と、10月に鹿児島大学で開催されたイタリア学会第67回大会では、本研究テーマと一見関わりのないような発表(いずれも、20世紀前半に発行されていたイタリア文人の詩の引用付きの風景絵葉書の流行について)を行ったが、その内容には、イタリアのオーストリアに接する山岳地帯をイタリア領であることを主張するために二つの大戦間に発行されていた愛国絵葉書には、スイス・アルプスを謳った詩(ジョヴァンニ・ベルタッキ作)まで使用されたり、山間のシャレー的な木造建築を被写体に選んだりするものも含まれる。また、大詩人ダヌンツィオをテーマにした当時の絵葉書には、逃避先であるフランスの海浜リゾート地アルカションを題材にしたものもあるが、この町はシャレー風の別荘建築群が多いことを特徴としており、スイス国外におけるシャレー・デザインの波及についての本研究にも繋がるものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究テーマであるスイス国外にできたスイス風建築の事例で2019年度内に訪問できたものは、アイルランドに残る18世紀末の2件のスイス・コテージ(南部の村ケアとダブリン近郊の町サントリにあるもの)と、イタリアのエルコラーノにある元貴族の別荘Villa Aprileの庭園内のシャレー風の東屋である。また、スイス風シャレーのイメージは南ドイツの民家とも混同されていたため、バイエルン国王の離宮リンダーホフ内にある王専用シャレーやゲルマン神話の登場人物にまつわる木造小屋、受難劇上演と木彫産業で知られる町オーバーアマガウの民家群も見学した。さらにドイツでは「フランケン地方版スイス Fraenkische Schweiz」の景観と木組み建築群や、コーブルク近郊ローゼナウ城の敷地にあったSchweizerei(スイス小屋)も訪れた。フランスではアルカションにある木組みのバスク風民家Maison Basqueやシャレー風の別荘建築群、鉱泉水リゾートの町エヴィアン=レ=バンに残る19世紀のシャレー風建築群、スイスではジュネーヴ近郊シェーヌ=ブールにある19世紀の植物学者コルヴォンのシャレーや、1896年の国内万博(当時スイスの民家村が再現されていた)跡地を見学し、19世紀末~20世紀初頭に建設された集合住宅にシャレー的なデザイン要素を含む郷土様式(ハイマートシュティール)を採用した事例がジュネーヴ市内に散見されることも確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19流行の影響によって現在の時点(2020年4月)で、すでにエントリー済みの二つの学会予定が変更となった。一つは、6月にスペイン・バルセロナで開催予定だった観光と景観に関する国際学会「Touriscape2」が11月に延期になり、もう一つは、7月に京都で開催予定だった観光学術学会第9回大会が中止になった。いずれも日本におけるスイス・シャレーの影響を受けた建築群についての発表を予定しており、そのための原稿も作成しているが、他にも本研究テーマに合いそうな複数の国際学会(秋以降にナポリ、パヴィーア、グラナダにて開催予定)で発表できるように準備を進めてゆく。COVID-19収束までの道のりが長期にわたり、すべての学会が予定通りに開催されないとしても、要旨・論文送付を伴うエントリーは予定通り行い、関連原稿は用意する。オンライン学会または学会論文集の刊行のみになって、現地で行える学会がなくなる可能性も考慮しなければならないので、本年度は、今までに蒐集してきた資料の閲覧やデータの整理ならびに可能な範囲での資料収集の続行、論文執筆作業に重点を置くようにする。
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