研究課題/領域番号 |
18K00121
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研究機関 | 跡見学園女子大学 |
研究代表者 |
河村 英和 跡見学園女子大学, 観光コミュニティ学部, 准教授 (50649746)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スイス・シャレー / スイス村 / ハイマートシュティール / 山小屋 / 山岳リゾート / ミルク療養 / ミルク小屋 / ハーフティンバー |
研究実績の概要 |
本年度はCOVID-19防疫のための海外渡航の規制があり、現地での資料収集と建物見学ができず、調査内容もコロナ渦の影響を大きく受けた。よって、前年度までは欧州各国(英、アイルランド、独、仏、伊)のスイス・シャレー風建築の受容史を研究してきたが、そこに日本のスイスの山小屋風建築を事例を大幅に追加し、7月の日本観光学術学会では、「日本人のスイスへの憧れとシャレー風のホテル・ペンション・ 別荘建築の興隆について」を発表した(この大会は開催中止となり、研究報告要旨集が発表の代替とされた)。9月には、イタリア都市史学会(パヴィア大学)が主催する「都市と療養」をテーマにしたオンライン学会で、「19世紀のアルプス山麓の牛乳療養施設におけるスイス風シャレー建築について)」という題の研究発表を行った。肺病などに有効とされたスイス発のホエイ・ミルク療法が、19世紀ドイツ語圏を中心にMolkenkuranstalt という施設で展開されたことに着目したもので、シャレー風建築であることが多く、名称もMilchkuranstalt、Schweizerei、Meierei、Milchalleなど規模や用途に応じて多岐にわたり、スイスの雰囲気を出すべく、20世紀初頭もシャレー風のデザインが好まれたことを明らかにした。11月は、バルセロナのカタルーニャ工科大学主催の学会「Touriscape2」で、「Japanese mountain landscape with the villa and hotel architecture inspired by the Swiss chalet and half-timber style」という題目で発表し、20世紀日本に建設されたスイス・シャレーを模した別荘・ペンション・ホテルについて、デザインの変遷、傾向、エリア、ジャンルなど時系列順に追った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はコロナ渦中で海外渡航ができなかったため、日本各地に建ったスイスの山小屋シャレー様式のホテル、ペンションが集中する地域を主な研究対象にした。スイス建築から着想した建物は数も分布地も予想以上に多く、調査地は北海道から九州まで(長野、新潟、宮城、秋田、岩手、福島、山梨、岐阜、島根、大阪、京都、愛知、兵庫、富山、石川、佐賀、長崎)に及んだ。山岳地・高原リゾートに集中するものの、レマン湖を想起させる湖畔の立地も含まれた。スイスの山小屋風と称するものはシャレー様式に留まらず、木骨造(ハーフティンバー)やスイスの教会の鐘楼をモチーフとするものもあり、建物単体のみならず町並みやスイス村を形成する場合もあり、銭湯壁画にまでアルプスやレマン湖畔風が描かれる現象も考慮し、スイスへの憧憬が景観に与えた影響が浮き彫りとなった。長野県ついては、信州をスイスに見立てた歴史から、登山家W・ウェストンの記述、戦後の高度経済成長、64年の東京オリンピックの前後のホテル建造ラッシュ、72年札幌オリンピックからバブル期へ至るスキーブームとともに、戦前の事例から現代に至るまで、県各地(諏訪地域、上高地、志賀高原など)に建ったスイスの山小屋風建築とスイス風景観について、勤務校の学内紀要で2020年度内に発表できた。また日本ではTVアニメ「アルプスの少女ハイジ」の放映後からバブル期に至る90年代、テーマパークやまちづくり、レジャー・保養施設などで、スイス風の建物を集めた「スイス村」が興隆した。バブル崩壊によって計画倒れで実現しなかったもの、今なおその姿を留めているものもあり、各地に派生した「スイス村」の歴史的経緯と現状を調査し、当時の日本人のスイスへの憧れを具現化したかのようなスイス村の数々が、「ハイジ」人気とバブル期に流行った外国のテーマパーク開業ラッシュと相まって、どうように展開・変化したかが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」で触れた、パヴィア大学主催の「都市と療養」をテーマにした学会で発表した拙論「La tipologia architettonica e lo stile di chalet alla svizzera nelle strutture per la cura del latte nelle localita' a pie' dell’Alpi nell’Ottocento (19世紀のアルプス山麓の牛乳療養施設におけるスイス風シャレー建築について)」が、論文集出版のための査読に通り、2021年内に刊行予定となっている。他にも「現在までの進捗状況」で述べた、日本各地に派生したスイス村の歴史についての論考が、勤務先の学内紀要に2021年内に掲載される予定である。日本のスイス・シャレー風建築は、当初想定していた宿泊施設や別荘の事例だけではなく、自治体が関与する場合は、役場、交番、消防署、公衆便所、観光地に付随する博物館やレジャー施設などの建物もスイス風の意匠が意識され、しかもチロル風と混同されることも多く、2020年度内にはそれらすべてを現地調査しきれなかったので、今後も日本国内の事例調査を続ける。2021年度も2020年度に続き、COVID-19防疫による海外渡航制限が続くことが想定され、海外での現地調査は叶いそうもないので、スイス国外の欧米各地で派生したスイス・シャレー風建築については、今まで収集した文献・資料を咀嚼することに集中していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19防疫のための海外渡航制限があったうえに、国際会議が延期やオンライン開催となったことから、海外出張がなくなり、予算に多く計上していた旅費などが消化しきれなかったため。2021年度も海外渡航は困難と予想されるので、引き続き海外の関連資料は収集してゆくが、建物の現地調査については、日本国内の事例に留めて続けてゆく。
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