研究課題/領域番号 |
18K00127
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
寺内 直子 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (10314452)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 雅楽 / 尾張 / 神楽 / 中央 / 地方 / 三河 / 美濃 |
研究実績の概要 |
この研究は、文化伝承の「中央」から「地方」への伝播、「地方」への定着と維持、「地方」の独自性の創出の問題を、宮廷芸能の雅楽を例に考察するものである。あまり知られていないが、名古屋は平安時代から今日まで「中央」に劣らない雅楽の伝統を保ち、周辺の美濃、三河地域でも雅楽が盛んに行われていた。 本研究は、名古屋圏の雅楽を例に、「地方」の雅楽がいかなる経緯で「中央」から伝播・定着し、地域の特性や 歴史的背景を反映しつつ、その伝承や社会的意 義を継続 、あるいは変化させてきたのか(変化し続けているのか)を、歴史的史料と関係者への聞き取り調査、現地の行事の取材によって検証する。 昨年までは、尾張、美濃地域の調査を重点的に行っており、愛知県東部・三河地方の調査がやや遅れていたが、2020年度は、西尾市、碧南市方面の歴史的史料の分析と現地調査を行うことにより、三河地域の雅楽の広がりについて、歴史、および現在の実態が浮かび上がってきた。西尾、碧南では、江戸時代中期より幕末にかけて、藩主の保護や地元の富裕層の熱心な取り組みにより、京都と楽人から直接に雅楽を修得し、娯楽的余興や寺社の儀式奏楽として雅楽が実践されていたことが確認出来た。また、養壽寺のように、明治期以来途絶えていた雅楽を用いる儀式が21世紀に復活する例もあり、古い伝統を再興し、地域活性化に活かす例が注目される。 一方、昨10月に行った尾張の真清田神社の例では、近代以降に中央からもたらされた宮中御神楽の「其駒」や宮内省楽師が創作した新しい巫女舞などを伝承する一方、在地で古くから伝承されてきた太々神楽を伝承している。太々神楽は一時衰退したものの地元の有志によって現在復興されて、中央の雅楽と併存しつつ、神社(地域)独自の伝承として、実践されている点が注目される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度はコロナ禍の影響で、多くの行事が中止されたり、非公開となったため、現地調査に支障が出た。しかし、その中で、10月には尾張・真清田神社の太々神楽、3月末には三河・西尾市の養壽寺の涅槃会(管絃講)を実地調査することができた。 真清田神社の太々神楽は、中央からもたらされた宮中御神楽の「其駒」や、宮内省楽師が創作した新しい巫女舞などと異なる、在地で古くから伝承されてきた「里神楽」であり、一時衰退したものの地元の有志によって現在復興されて、中央の雅楽と併存して伝承されている例として注目される。 また養壽寺の涅槃会(管絃講)は、現代に生きる三河地域における雅楽伝承の例として注目される。また、歴史資料によって、西尾、碧南の雅楽伝承の歴史的経緯についても明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に行った西尾方面の調査、考察によって、近郊の岡崎市(岡崎藩)でも歴史的に、また現況として、雅楽が伝承されていた(いる)ことが見えて来た。岡崎では、幕末から寺や城下町の祭礼で雅楽を実践されていた痕跡があり、また、明治以降、地元の一般の人々の間で、雅楽団体がいくつも立ち上げられたことがわかっている。さらに、近年、小学校の活動に雅楽が取り入れられる例が数例あり、今後、歴史的史料と現地の聞き取り調査を交えて、岡崎以東の三河地方の雅楽の歴史と現在の詳細を明らかにしたい。 また、幕末から明治にかけて、神職の宗教的・学問的な交流のネットワークから、豊橋地域での雅楽の実践も想定される。豊橋は江戸時代には吉田藩の城下町で、藩主の(大河内)松平氏が雅楽の実践者だったという歴史的な経緯もあり、この観点からの史料調査も行いたい。 2021年度は研究の最終年度なので、尾張、三河、美濃方面の調査結果をまとめるとともに、音楽史の研究者のほか、愛知県の地方史の研究者を交えたシンポジウム(研究会)を開いて、情報交換を行いたい。シンポジウムは対面が難しい場合、遠隔開催とする。
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