研究課題/領域番号 |
18K00128
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研究機関 | 奈良教育大学 |
研究代表者 |
劉 麟玉 奈良教育大学, 音楽教育講座, 教授 (40299350)
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研究分担者 |
徳丸 吉彦 聖徳大学, 音楽学部, 教授 (00017138)
福田 千絵 お茶の水女子大学, グローバルリーダーシップ研究所, 研究協力員 (10345415)
小塩 さとみ 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (70282902)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 植民地台湾 / 日本伝統音楽 / 昭和期(1926-1945) / 三曲 / 伝統音楽教育 / 検番 / 邦楽 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、4回の研究会と台湾現地調査を1回行った。研究会では、分担者が新たな研究方向を決め、昭和期(-1945)の台湾での日本の伝統音楽活動に関する資料調査をはじめた。具体的には、劉は台湾神社祭の検番の余興活動に注目し、1930年代の検番の活動状況について詳細に調査する。また、本研究課題のもう1つ重要な目標である「台湾現地の人々や台湾滞在の経験を持つ日本人にとって当時の台湾における邦楽の存在がどれほど記憶に残っているのか」について聞き取り調査を行うため、聞き取り調査の相手を探している。徳丸は1930年代の台湾における邦楽の活動環境と日本内地との関連性など社会的背景からアプローチしている。小塩は台湾にいた邦楽音楽家の活動に注目し、その詳細な状況を新聞や雑誌の記事を通して探求する。福田は台湾を来訪した邦楽音楽家の演奏会場に注目し、各地の地図のデータ化を行なっている。 3月に実施した現地調査では以下の4つ成果をあげることができた。1つ目は中央研究院GISセンター(地理資訊科学研究専題中心)を訪問し、同GISセンターが持っている技術を用いて、本科研グループの研究成果を地図化してセンターのウェブサイトで公開してもらえることとなった。2つ目は日本時代に初等教育を受けた台湾人への聞き取り調査を行い、学校での音楽教育等について有益な情報を得ることができた。3つ目は彰化県にある旧制彰化高等女学校を訪問し、同校の資料室で、日本人邦楽音楽家の演奏会や生徒が箏を演奏する写真を複数確認することができた。これらは邦楽が学校現場で使用されたことを証明する重要な資料である。4つ目は、本研究課題の1つとして設定したアジアの関連課題を研究している研究者のコロキウム開催について、国立台湾大学音楽学研究所所長らに面会し協力の約束を得ることができた。コロキウムは2020年3月に台北で開催することが決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究目的と平成30年度の進捗状況を照らし合わせると、以下のことが順調に始動したと考えられる。(1)オーラルヒストリーの構築に関して、台湾人の聞き取り調査の対象をある程度確保する見通しが立ち、実際に聞き取り調査を開始した。3月の台湾訪問時に行った聞き取り調査では、植民地台湾時代の学校教育で学んだ音楽や、当時の町での音楽活動の様子について、貴重な話を聞くことができた。(2)資料調査に関しては、台湾の研究補助員の協力を得て、『台湾日日新報』を「三曲」「新日本音楽」「長唄」などのキーワードで検索することで必要な関連記事を収集する方策が確立し、資料調査が効率的に行えるようになった。現在、各自が検索で見つかった資料の読み込みを行っている。(3)旧台中州(現台中市、彰化市を含む)の演芸場の調査を行ない、対象地域を広げることで、植民地時代の芸能の上演状況を多面的に検討する基礎を作ることができた。今後、西海岸の花蓮県などの現地調査も視野に入れる。(4)台湾研究者による植民地台湾時代の音楽に関する研究成果を学び、本研究グループの研究成果を発信することを目的とするコロキウムの開催を企画し、その開催に向けて台湾大学音楽学研究所と協議を行い、台湾に限定せずにアジアの他地域の植民地を研究対象とする研究者も招いた形で共催することとなった。(5)研究成果の公開に関して、台湾中央研究院GISセンターの協力を得ることができた。早ければ2019年の夏には本グループの研究成果の一部がGISセンターのウェブサイト上で公開される見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、次の2つの側面から推進する予定である。 (一)本年度からの引き継ぎ事項:(1)聞き取り調査に関しては新たな聞き取り調査対象(台湾人)がいるため、対象者から話を引き出し、深い話ができるようになるまで数回のインタービューが必要であると考えられる。そのため、8月と3月に台湾に訪ね、聞き取りを複数回行う予定である。日本人の調査対象者についても、引き続き協力者を捜す予定である。(2)資料調査に関しては、新聞・雑誌記事の収集を継続しながら、すでに集めた資料の内容の読み込みを行う。また近年、各地域の行政機関の史料保存や旧制学校の史料整理が進んでいるが、ネットでは検索できない資料も数多く存在しているので、それらの機関を訪ねて調査を行いたい。(3)台湾の東海岸地域の演芸場については、ほぼ半分の都市で調査を実施したので、今後は、現存する演芸場を訪ねて可能であればより調査を行いたい。また、西海岸の花蓮県などの演芸場についても、今後現地調査を実施できればと考えている。 (二)研究成果の公開:(1)東洋音楽学会東日本支部での発表(令和元年7月、於武蔵野音楽大学)、(2)データベースの一部を台湾中央研究院GISセンターのウェブサイト上に公開(令和元年8月、台湾中央研究院GISセンターとの共同研究事業)、(3)国際コロキウムの共催(令和2年3月、共催者:台湾大学音楽学研究所)。本国際コロキウムの研究成果を将来出版する前提で企画を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は聞き取り調査対象者を見つける等の研究準備作業に多くの時間をかけることとなった。そのため、当初予定していたほど使用額が生じなかった。本年度の残額は次年度の旅費と謝金に加算して使用する。 (1)旅費に関しては、研究会開催のための国内旅費と、国際コロキウム開催および聞き取り調査のための海外旅費を必要とする。国内旅費については、東洋音楽学会の例会発表および3月に開催予定の国際コロキウムの発表準備と情報交換のため、4回の研究会を東京において開催する。また、東洋音楽学会東日本支部の例会に出席するための国内旅費も計上する。海外旅費に関しては、国際コロキウムが台湾大学で開催されるため、その時期に合わせて現地における聞き取り調査と資料調査も実施する予定であり、約1週間の滞在費用を計上しなければならない。また8月に予備調査を行うために台湾への渡航の必要があるため、2回(一部の分担者)の海外旅費を計上する。8月と3月の海外調査はいずれも海外旅行の繁忙期で、運賃が閑散期より高額であるため、予算のほとんどが旅費に使われるという状況にある。 (2)謝金については、日本国内の事務補助員と、台湾での資料調査の研究補助者に支払う謝金を計上している、また、聞き取り調査に応じてくれた方にも一定の謝金を支給する予定である。
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