本研究「20世紀以降の器楽音楽と電子音響音楽における構造的音色表現の研究」は、現代の音楽美学的課題として音色表現に着目し、「音色の諸相」を、音楽に関わる三つの学問分野(音楽学、分析理論、音楽情報処理)を横断する方法で実施された。対象となる音楽を20世紀以降のものに限定したことにより、音色表現は、ピエール・シェフェールの音響思想の基盤となる1940年代のラジオ活動と演劇活動の音楽学的歴史研究、1960年代の電子音響音楽における音響心理学を『音響オブジェ論』の翻訳と音響サンプル製作による感性データ研究、音楽演奏の場面におけるヴァーチャルおよびリアルなインタラクションにおける認知研究によって進められた。研究成果は、日本音楽学会、先端芸術音楽創作学会、日本電子音楽協会、国際コンピュータ音楽学会、電子音響音楽国際研究会、音楽情報科学研究会等で発表された。 1940年代のシェフェールのラジオ活動と演劇活動は、ミュジック・コンクレートに独特の方向性を持たせた。音響の聞き取りに関して、聴取者の記憶・経験や文化背景が重要であることは広く認識されているが、シェフェールが青年演劇活動の脚本製作や演出に携わったこと、初期ラジオ放送に技術者として携わったこと、演劇で培った広い人脈によってラジオ・ドラマに独自の広がりを持たせことは、 20世紀フランス独特の芸術展開であり、これまでの研究ではあまり指摘されてこなかった局面である。本研究ではその点にスポットをあてた。
|