研究課題
基盤研究(C)
本研究では、プロティノス『エンネアデス』の感覚に関わる諸議論における印影や痕跡の位置づけとそれらが魂と肉体の関係において果たしている役割について考察し、感覚的把握とそれに触発された知的機能の諸局面における現れの受容や情動をめぐる議論展開の独自性を見極めることを目的とした。その上で、肉体と区別される非受動的魂がいかにして肉体に生を与えているのかという観点から、魂が自らの痕跡を肉体に送り出して魂と肉体の関係に寄与している機能の特殊性を明確化することができた。
美学
像を受容し創造する魂の受動的・能動的働きと、それらの働きを方向づけ、像とその源泉とのつながりを指示する痕跡の働きについてのプロティノスの議論を考察することで、人間の魂の機能において知性面と感性面の働きが連動していることを見極めて、その動態の側面に着目することから身体への関わりも含めて解釈を遂行することができた。それは、感性と知性とが区別されるものでありながら、知覚や認識において協働しているという人間精神の活動様態を究明する基盤ともなりうる。