研究実績の概要 |
2019年度は、前年度に引き続き、『歌道要法』の伝本の収集と調査を行った。 『歌道要法』(安冨祖正元、1845)には、二つの異本の系統があることが知られている。一つは約800字の短い本文、もう一つは約1,800字の長い本文である。短い本文は、(1)安冨祖流工工四(安室朝持編、1912)、(2)冨原守清『琉球音楽考』(1934)の二つの系統に分けることができる。長い本文は、(1) 琉球大学附属図書館所蔵『琉歌集』(喜舎場孫正旧蔵、写本の複製本、書写年不明)、(2)大城彦五郎編『節組琉歌集』(大城活版所、大正年間)、(3) 那覇市歴史博物館所蔵『向大輝川平朝彬 歌道要法』(川平朝申旧蔵、写本、書写年不明)の三つの系統に分けることができる。 短い本文のうち、(1)は(2)より先行するが、比較的初期と思われる安冨祖流工工四(沖縄県立芸術大学所蔵田辺文庫本、ハワイ大学所蔵宝玲文庫本の複製本)や山内盛彬の著作を参照すると、1912年の編纂当時、『歌道要法』はまだ掲載されていなかった可能性が高い。長い本文のうち、(1)の旧蔵者は石垣出身の喜舎場孫正(1892-1968)と見なされる。(2)は沖縄県立芸術大学・西尾市岩瀬文庫・ハワイ大学に計4点の所蔵が確認され、刊行年は1918, 22, 25年であるが、1918年は(2)の刊行年であるかどうか不明である。(3)は、野村安趙の弟子に当たり、欽定工工四の編纂に関わった川平朝彬(1838-1916)の編纂と伝えられる。 総括すると、短い本文は1934年、長い本文は1922年にまで遡ることができる。書写年不明の写本は、いずれも長い本文である。したがって、長い本文は短い本文より先行した可能性が高い。 以上の研究成果は、「二つの『歌道要法』」(沖縄文化協会第4回東京研究発表会、2019年9月7日)として口頭発表した。
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