研究課題/領域番号 |
18K00137
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研究機関 | 国立音楽大学 |
研究代表者 |
沼口 隆 国立音楽大学, 音楽学部, 准教授 (70453529)
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研究分担者 |
川西 千秋 (沢田千秋) 国立音楽大学, 音楽学部, 講師 (50816387)
安田 和信 桐朋学園大学, 音楽学部, 准教授 (90751371)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ベートーヴェン / 交響曲 / 編曲 / 楽譜 / 出版 / 19世紀 / 国立音楽大学 |
研究実績の概要 |
当該の研究課題は、より大きな研究の一部を成すものであるが、研究全体の最終目標は、国立音楽大学の「ベートーヴェン初期印刷楽譜コレクション」の全容を明らかにし、デジタル・アーカイブ化するとともに、その内容の一部を実践を通じて紹介することにある。未公開資料(楽譜)のPDF化は、全体の基礎となる作業である。当該研究課題では、対象を交響曲(全9曲)の編曲譜に限定しているが、初年度中に第2番まで、2019年度には第7番までのPDF化が終了した。対象の総数は約125点であるが(事前調査と点数に齟齬があるため概数)、通算で約100点のPDF化が終了している。PDF化の作業の中では、一部の資料の欠損や重複なども確認されている。 当該研究では、以下の3つの柱を設定した:(1)国立音楽大学所蔵「ベートーヴェン初期印刷楽譜コレクション」のデータベースの整備、(2)同コレクションに含まれる交響曲の編曲譜の精査、(3)交響曲の編曲の中で興味深いものを取り上げ、演奏会で披露するとともに録音として残す。 (1)については、2019年度には本質的な進展がなかった。(2)、(3)については、2019年12月16日に国立音楽大学附属図書館において「室内楽で聴くベートーヴェン交響曲第5番「運命」作品67」を開催したことにより、準備段階で一定の精査を行って演目を選定する一方、4つの楽章を3つの異なる編成によって披露することを実現した。レクチャーと演奏の模様はDVDによって保存されている。 PDF化された楽譜については、立命館大学アート・リサーチセンターの協力を得て順次公開してゆくことで具体的な検討に入っていたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、準備は一時的に停滞している(国立音楽大学附属図書館は、同センターのデータベースを通じて、すでに「竹内道敬文庫デジタル・アーカイブ―錦絵の部―」を公開している)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遅延の大きな理由は、PDF化に際しての労働力不足にある。この作業の担当者は、資料を正確に整理するのみならず、楽譜の内容も理解する必要があるため、信頼のおける人物を選定する必要がある。2019年度には、演奏専攻の博士後期課程の学生2名に依頼した。一方は19世紀のベートーヴェンの出版譜を研究対象としているという点でも適性に優れ、他方は社会人経験も豊かで信頼性が高く、また相互関係も良好であることから、理想的な布陣ではあったが、それぞれに仕事や演奏活動などの「本業」に多忙で、想定していた以上の作業が進まなかったのが現状である。また、学生たちに時間のゆとりのできる2月後半から3月に新型コロナウイルスの感染が拡大し、さらに作業の機会を失うこととなった。 資料内容の精査についても、演奏会に向けての準備はあったが、定例会議のようなものの必要性が感じられる。資料はある程度出揃い始めたので、次年度の課題としたい。 レクチャーに関しては、大きな手ごたえのあるものではあったが、もう一度やっておいても良かったというのが実感である。早急に2020年度前半の開催に向けて準備を始めようとしていたが、すでに5月一杯のキャンパス閉鎖が決まっている中で、本報告書執筆時点においては、進展が完全に停止してしまっている。
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今後の研究の推進方策 |
今年に実現すべき課題としては、優先順位の順に(1)楽譜資料PDFのウェブ公開、(2)交響曲の編曲譜に関する楽譜資料PDF化の完結、(3)規模の大きい演奏会の実現、(4)国立音楽大学所蔵「ベートーヴェン初期印刷楽譜コレクション」のデータベース整備、という4つの柱が考えられる。 (1)については、上述の通り、公開すべき資料はあり、公開の場所も決まっているので、すでに軌道には乗っていると考えて良い。その際、公開する資料の情報を整理・精査し、(4)のデータベース整備に繋げてゆく。データベース全体の見直しには莫大な時間を要するため、短期間に達成することは難しく、優先順位は低くしてあるが、(1)との連携によって着実に進めてゆく予定である。 (2)も、過去2年間での達成度を考えれば、基本的には実現できるであろう。(2)を達成してから(1)ということも視野に入っている。ただし、上述のように人手確保に課題を抱えているほか、2020年度前期は新型コロナウイルス禍に伴う登校禁止措置などにより、アルバイトが作業できない状況も続いているので、作業の進行には予断を許さない面もある。 (3)に関しては、2020年がベートーヴェン生誕250周年記念でもあるため、大きな規模の演奏会を企画中である。会場の選定を始め、紆余曲折があったが、東京藝術大学の「藝大プロジェクト2020」との連携を提案され、東京藝術大学奏楽堂を会場とし、2020年11月1月に交響曲第2番の9重奏版の演奏を軸とした演奏会を行う予定となっており、国立音楽大学教授でヴァイオリニストの永峰高志氏を中心とした演奏家も決まっている。新型コロナウイルス禍の現況にあって、先の見通しは困難ではあるが、無観客開催も視野に入れつつ、できる限り実現を目指す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
アルバイトの労働延べ時間が低水準にとどまってしまったこと、および演奏会が実施できなかったことにより、支出が大幅に計画より下回った。また、図書館レクチャーにおいては、チラシの作成等を国立音楽大学附属図書館が負担してくれたこと、演奏者を学生にしたことにより出演料が格安に抑えられたこと(沢田の演奏指導に負うところが非常に大きい)により、経費を大幅に削減することができた。 一方で、研究協力者間において、2020年度に行う演奏会に備えて資金を温存することについても合意を形成した。
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