研究課題/領域番号 |
18K00139
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
前田 富士男 慶應義塾大学, 文学部(三田), 名誉教授 (90118836)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ゲーテ / バウハウス / 自然科学 / 芸術 / 庭園 / 地質学 / アーカイヴ |
研究実績の概要 |
2019年度は、ゲーテ時代における岩石神学の問題と、20世紀初頭のバウハウスでの建築と大地の神話的認識とモニスムス・エネルギー論との関連、グノーシス的基盤を追究した。ヴァイマル・バウハウスは創立100周年・新美術館開館。諸施設で史料公開ゆえバウハウス大学アーカイヴほかで8月6~19日に史料調査を行い、またゲーテ博物館・KSWにて研究者と本課題の意見交換を行った。8月末にて本予算執行が終了。私費にて2020年2月にミュンヘン、ベルリン、ヴァイマルでヤウレンスキー展、ゲーテ/啓蒙と理性展ほかの史料調査を実施した。 2019年度は、3件の研究口頭発表と6件の論文発表を行った。口頭発表: 1.「芸術の終焉とバウハウス」形の文化会、2019年6月。2.「バウハウス100年における論争と葛藤」三田芸術学会、2020年1月。3.「自然科学と芸術─二つの<転回>」日本科学協会、2020年1月。 論文発表: 1.「ゲーテの地質学素描からC.G.カールスの地景画へ」『形の文化研究2018』12号、2019年3月。2.「大地(Land)の芸術学─庭園と建築を歩む」『教養研究2018年度』講演記録集、慶應義塾大学教養研究センター、2019年3月。3.「ジェネティック・アーカイヴにおける<歴史>の再検証」『Booklet27 芸術とアーカイヴ』慶應義塾大学アート・センター、2019年3月。4.「大学のなかの庭から庭のなかの大学へ─知の境界を問う<庭園>にむけて」中部大学民族資料博物館、展覧会図録、2019年10月。5.「《ローマ荘》建築家としてのゲーテ─<物質>の感性学と大地の解釈学」『モルフォロギア』41号、ゲーテ自然科学の集い、2019年10月。6.「前衛としてのグラフィクの<方位>─バウハウス創立100周年とJ・シュミット」『学術研究助成紀要』2号、DNP文化振興財団、2019年11月。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドイツ近代美術研究は一般に、第一次世界大戦前の1910年頃の表現主義を対象領域として展開してきた。だが、ドイツは世界大戦敗戦時の1918/19年に、他の近代諸国にない変動を経験する。帝政から議会民主主義へ、教養市民層社会から共和制的市民文化への改革、ドイツ革命による社会主義の追究と破綻など、「文化」の改革/革命の本質が問われた。しかしこの問題は、ブルーノ・タウト研究を除けば、美術史では看過されてきた。1919年4月にヴァイマルで開校するバウハウスについては、そのデザイン活動の成果が研究されてきたものの、じつは開校時の経緯については研究が乏しい。 2019度は、造形芸術における「危機と革命」の観点から、バウハウス開校にいたる創立者で建築家グローピウスの芸術教育・活動の理念と相剋を追究し、従来看過されてきたバウハウス成立史を解明し、成果をえている。 またこの問題を社会学と美術史学の接続から考察するにとどめず、ヴァイマルという小都市文化の地平に即して、芸術制作活動の根源に立ち戻り、建築と大地、自然と造形芸術、岩石神学と反神学的近代美学の連関を検証した。具体的には、グローピウスの建築論とゲーテの地質学・建築観との比較分析である。 本研究では、美的価値と社会的倫理との統合/離反を追究せざるをえない。その水準で、価値の一元論としてのモニスムス、価値の二元論としてのグノーシスを研究の根底におく方法をとっている。課題は、錯綜する重い問いにみちているものの、2019年度は、ドイツへの出張調査などにて、2020年度にむけて研究成果への重要な手がかりと実証的史料の把握に進展をえたと認識する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題も第三年度にて 「ドイツ近代美術の位相」をモニスムス的一元論とグノーシス的二元論から追究してきた研究成果の集約を行う。基本的には、2020年度も研究を進めつつ、これまでの成果をまずシンポジウム・研究会ほかにて発表し、客観的な討議・評価をえて内容の修正や改訂を試み、その過程を踏まえて学会誌ほかに最終的な成果を公表する方式をとる。しかしこのとき、単一の論文発表ではなく、従前の二年間に発表してきた研究成果を「クラスター(葡萄の房状)」形態にて共有する方式を模索したい。実際には、たとえば「オンライン・ヴェルクシュタット(アトリエ)」のような手続きにて、単独の印刷メディアのみならず、ネット環境にて成果を公開・共有しうる方式を開拓したい。もちろん、美術史学ゆえ、画像史料などクレジット問題があり、実現は慎重に検討せざるをえない。 また、本基盤研究(C)のように、研究代表者1名のみの研究方式の場合、成果は個別的な発表形式にならざるをえないが、上記のような「ヴェルクシュタット」に、あくまで許可される範囲にて、研究成果の共有を試みたい。人文科学研究の個別性独自性の長所を再検討する方式も検討したい。 2020年度は、当初の計画では国際シンポジウム開催を計画し、スイス・ドイツからチューリヒ大学ケルステン教授ほか研究者の日本への招聘を予定した。しかし、現今のウィルス感染症の世界的状況により、2020年度後半でも実現はおそらく困難かと思われる。その点からも、「オンライン・ヴェルクシュタット」の可能性を検討したい。
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備考 |
中部大学民族資料博物館2019年度特別展「中部大学University Gardenと岡田憲久」図録(2019年10月1日発行,44-49頁)に、筆者の論文「大学のなかの庭から、庭のなかの大学へ──知の境界を問う<庭園>にむけて」を発表掲載。本論は同年度のドイツ・ベルリンで開催された展覧会にふれ、最新の研究関心を論じた内容である。
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