2019年2月~2021年3月にわたる長期のコロナ感染症禍により、ドイツ・スイスの研究調査および国際シンポジウム開催準備が断念を余儀なくされ、本最終年度の当初の研究予定は変更した。すなわち、建築家テッセノウを中心とするモニスムス運動の調査、そして画家クレーと心理学者ユングとの関連をグノーシスの観点から追究する二つの計画を「反規範」の視点から統合し、ヴァイマル・バウハウス(1919-1925)のデザイン活動を、規範停止としての「例外状態」(法哲学者C・シュミット)から解明する新しい研究を行った。 バウハウスは2019年に開設100周年を記念し、ドイツはじめ世界中で新しい研究が展開した。しかしわが国では、後期産業資本主義社会における機能主義的価値を志向する多数作品の制作という伝統的理解にとどまってきた。申請者は、バウハウス創設者W・グローピウスが第一次世界大戦終局時のドイツ革命(1918年11月-)で直面した社会状態、つまりドイツ国君主制の解体、芸術家(教養市民層)と労働者層との断絶、社会主義的評議会制と民主主義的議会制との交錯など、あらゆる法的規範が停止する「例外状態=非常事態」にデザイン学校創立の原点を確認した。倫理的自己批判を基軸に共同体/集合体の関連を持続的に変換してゆくリベラルな「デザイン」活動である。それは同時に、原作・独創性を指標とする品質的な芸術的価値の優先ではなく、複数作・公開性にもとづくポスト・主体的な生活世界の定立に接続する。 こうしたデザイン概念の提示は、すべてが多元化・多様化する現代に、あらためて複雑化を縮減する「信頼」の基軸を浮上させる。本年度の研究は、現代の美学・芸術学・社会学にデザイン概念を再構築する新理論の提示である。この研究成果は、著書出版を視野におく長文の論考「危機と戦うバウハウス・デザイン」(学会誌は2021年3月に遅延発行)に発表した。
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