令和三年度は研究期間の最終年度となるため、これまでの研究の進捗を確認し、特にコロナ禍で研究計画の変更を余儀なくされた資料調査を集中的に行った。地方での資料調査は、当初の計画を十分に遂行することは難しかったが、関東地域での資料調査はほぼ計画通りに行うことができた。新たな課題として、地方の商業演劇の職業化と興行展開を軽演劇だけでなく大衆演劇からも検証する視座を得ることができ、これについても資料調査と研究成果を出すことができた。 研究実績としては、口頭研究発表2点、学術論文2点、著書1点を発表した。口頭発表「筑紫美主子劇団にみる商業俄のドラマ性」では、民俗芸能としての俄が商業化・職業化する過程で獲得したドラマ性について検証した。同「侠客と女剣劇―籠寅興行部と大江美智子一座にみる大衆演劇の興行展開―」では、下関を拠点とし、大正・昭和期に大衆演劇の全国興行を実現した籠寅興行部の興行展開と戦略を女剣劇の大江美智子一座を中心に検証した。学術論文「侠客と女剣劇―籠寅興行部と大江美智子一座にみる大衆演劇の興行展開―」は前記の同タイトルの口頭発表を論文化したものである。同「ピエル・ブリヤント他観劇写真貼込帖の考証」では、榎本健一所属の劇団「ピエル・ブリヤント」他の昭和戦前期の観劇写真(観客が客席で撮影した舞台写真)の考証を通して、従来あまり知られていなかった軽演劇の舞台装置等について検証した。著書では、大正期の翻訳オペラの興行展開について、本格オペラのローシー・オペラと大衆オペラの浅草オペラに焦点をあてて検証した。 また本年度は研究成果の社会還元として、複数の放送・活字メディア出演し、主に昭和期戦中期の軽演劇及び商業演劇の知見を提供することができた。
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