研究課題/領域番号 |
18K00145
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鈴木 雅雄 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20251332)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マンガ論 / 視覚文化論 / 19世紀フランス文化 |
研究実績の概要 |
近代の視覚文化において、映画やテレビなど「動くイメージ」の役割が決定的なのは当然だが、他方イラストやポスター、マンガといった静止イメージ・メディアもまた近代特有の「視の体制」によって規定されている。そうした静止イメージの構造を探ることがこの研究の課題だが、2018年度の作業は、マンガに関するワークショップと、マンガ等、近代的視覚文化についての資料調査の2つに分けられる。 連続ワークショップ「マンガの体験、メディアの体験」は、視覚文化史におけるマンガの位置を考えるものであり、2018年度は10月と12月に開催した。それぞれマンガ研究者と近接分野(メディア論、表象文化論)の研究者を1名ずつ招いて報告を聞き、討論を行った。第1回ではスマートフォンなどのスクリーンで読むことが一般化した現在、マンガがメディア環境の変化からいかなる影響をこうむっているかを扱うとともに、コマの連続によって物語るという形式の持つ高い柔軟性にも注意を向けた。次に第2回では近代マンガが形作られた19世紀に遡り、連続写真や映画といった同時代の技術との複雑な関わりについて考え、マンガの文法が成立するプロセスに関する考察を深めた。 資料調査としては、まずネット上で閲覧できる19世紀フランス語圏のマンガ作品に関する情報を網羅的に整理した。現在ではきわめて珍しい資料でもネット上で閲覧できるものが多いことを確認できたが、そのうえで3月にはフランスに赴き、さらに情報を精緻化した。このなかで近代的なマンガの「線」(いわゆる「リーニュ・クレール」)の成立、および時間経過の近代的表現という2つの点から、カラン・ダッシュなど数名の作家の重要性を再確認できた。 以上の他、近代的イメージに関する研究成果の一部をシュルレアリスムの作家・画家であるジゼル・プラシノスに関する著作、およびシュルレアリスムをめぐる学会発表の場で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要欄に記したとおり、連続ワークショップの開催と個人での資料調査およびその資料に基づいた研究が2つの柱になるが、両方とも総合的に見れば順調に進行しているといえる。フランス文学研究者であるとともにマンガ研究者である中田健太郎氏の協力をえて進めているワークショップは、中田氏の人脈もあって他分野の優れた専門家に参加してもらうことができ、2019年度に予定している全4回についても人選が完了している。2018年度の2回、2019年度の初回(通算で第3回)はすでに終了しているが、毎回聴講者も多く(50人~70人程度)、全6回が終了したのちに単行本化することも決定していて、問題なく進行していると判断できる。 個人での資料収集と研究は、思いがけず引き受けざるをえなくなった役職や私生活上の都合でやや遅れる側面もなくはなかったが、フランスのマンガ史研究者が作っているサイト「Toppferiana」が非常に役立ち、そこから出発して想像していた以上の情報にアクセスできたこと、またこれも概要欄に記したとおり、カラン・ダッシュなど幾人かの作家についてその重要性を再確認するとともに、3月の調査ではやりきれなかったが、次回以降のフランス出張で参照すべき資料についての目途を立てられたことなどからして、全体としてはやはり順調に進んでいると考えられるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度も、基本的に当初の計画どおりに進める予定である。 まずワークショップは春学期2回、秋学期2回の計4回を予定しているが(今年度第1回はすでに終了)、登壇者の人選は済んでいるとともに、日程も決まりつつあり、論集としての刊行の目途も立っているので、着実に進めていけるだろう。 資料収集という点からすると、当初は2年度目の夏に、絵本関連の作業のためアメリカに出張することを考えていたが、カム(シャム)やカラン・ダッシュなど、19世紀後半から20世紀初頭に活躍したフランス語圏のマンガ家に関する作業が中途段階なので、2019年の夏はフランスでの調査を続行し、絵本についての資料調査は冬以降、場合によっては最終年度(2020年度)にまわす可能性もあると考えている。このあたりはやや流動的だが、根本的な計画変更にはならないと考えている。 また19世紀後半から20世紀初頭にかけてのフランスにおけるポスターの調査も同時進行で進めたい。この時代における絵画/ポスター/イラスト/絵本/マンガといった各分野間の垣根は、今の我々が想像するよりもずっと低いものであり、1人の作家・画家がジャンルによってイメージの文法をどのように使い分けていたかは、この研究にとっても重要である。だが多分野で仕事をした作家におけるジャンルごとの作品の比較作業は、断片的にはなされているものの意外なほど未開拓な部分があって、今年度はまだもう少しフランス(語圏)にとどまりつつ、ベル・エポックから両大戦間期くらいの資料を参照していくことには大きな意義があるものと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末にフランスの書店で購入した書籍が、届いてみるとカタログにあった値段より割引になっていたため、5000円弱の金額を使用しないままになった。翌年度分の図書資料代として使用する予定。
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