近代的な静止イメージ・メディアを代表するものとしてのマンガをめぐって、2018年から2019年にかけて連続ワークショップを開催し、その成果を2022年に単行本化した。その後はこの論集で示された多様な視点を踏まえ、とりわけマンガが19世紀以降の欧米でたどった形式的な変遷を、コマ構造を中心に据えて理論化する作業を進めてきたが、コロナ禍によって中断していた現地での調査を2023年の夏から再開することができ、資料調査でも一定の進展があったと考える。ただし今年度の調査では、非常に珍しい資料を発見できたとはいえず、研究書等で得ていた情報の確認作業が中心だったことは否定できない。最終年度ということもあり、今年度はむしろ、近代的な視覚ディアとしてのマンガの構造に関する自分自身の考察を整理し、論文としてアウトプットすることに時間を使った。 今回の研究のなかで徐々に明確になってきたのは、近代的なキャラクター表象の特異性は、それを取り囲むフレーム(マンガにおいてはコマ)の機能の変化と深く関係しているという事実だったが、この観点からキャラクターの同一性というマンガ研究の中心問題の一つに関する自らの考察を論文の形にまとめ、大学の紀要に発表した。またこの問題についてのより包括的な考察を、文学・芸術と現実との関係をめぐる、十数名の著者の論文を集めた論文集に掲載する予定である(2024年秋ごろ水声社から刊行予定)。 また2024年3月には、パリでの資料調査の合間にイギリス(グラスゴー)に赴いて、当地の視覚文化研究者と交流した。小規模ながらマンガに関する講演会を行う機会を持ち、19世紀のフランス語圏におけるイメージ文化に深い見識を持つ研究者の意見を聞けたことは、貴重な体験であった。自分自身のマンガ論を単著の形で発表するという目標は達せられていないが、以上の作業はすべて、この目標につながるはずである。
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