本研究では、障害者の創作現場への芸術家の関与の諸相を分析するために、制作、展示、保存など、障害者の芸術活動の様々な局面に関わるプロの芸術家への聞き取り調査を行い、障害者の創作活動が評価される過程で芸術家が果たす役割を明らかにすることを目指すものだった。 研究期間の前半における最大の成果は、オランダ、ベルギーで充実した調査を行えたことだ。ベルギーの代表的な障害者アトリエ「La "S" Grand Atelier」のディレクターや講師の芸術家へのインタビューや、ヨーロッパを代表する障害者の作品の展示施設「Mad Musee」のリニューアル工事に立ち会い、ディレクターや学芸員から話を聞けたこと、ヘントで開催された新型出生前診断の問題をアートを通じて可視化する斬新な展覧会を企画した研究者に話を聞けたことは、いくつかの論文での成果となっただけでなく、申請者の分担研究者としてのその後の科研費研究にもつながるものとなった。 研究期間の後半は、新型コロナウイルスによる制約から、当初予定していた海外での調査は実現できなかったが、その分、国内での調査と成果発表を充実させることができた。最終年度には、主に関西で障害者の表現活動に関わっている6名の芸術家への調査を、映像表現を中心に活躍する芸術家とともに行い、その成果を京都芸術大学での展覧会という形式で公表した。美術系大学での展覧会という形式による研究の可視化は、この分野に関心のない若い芸術家たちへの刺激にもなり、また研究をリサーチ型の表現活動を行っている芸術家と共同で行い、成果を展覧会という形式で可視化することは、芸術研究の新たな可能性を探求することにもつながった。 本研究の成果は、上述の論文や展覧会の他、国や地方公共団体における障害者の文化芸術活動の推進に関する施策決定に対する提言等にも活用され、社会的な貢献にもつながった。
|