研究課題/領域番号 |
18K00155
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研究機関 | 神戸女学院大学 |
研究代表者 |
津上 智実 神戸女学院大学, 音楽学部, 教授 (20212053)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 永井郁子 / 邦語歌唱運動 / 宮城道雄 / 杵屋佐吉 / 永井柳太郎 / 君が代 |
研究実績の概要 |
本研究は、近代日本における洋楽ジャンルの成立と楽界に対する演奏家の貢献を再評価するため、女性音楽家たちの創造的な演奏活動が「歴史的演奏会」と「日本歌曲」の成立に果たした役割を明らかにすることを目指す。 初年度の2018年度は、従来最も研究の進んでいないソプラノ歌手永井郁子(1893-1983)に関する基礎調査を集中的に行った。まずは『朝日新聞データベース聞蔵II』と『読売新聞データベース・ヨミダス歴史館』によって、両新聞に掲載された記事を収集・整理して、永井の音楽活動のアウトラインを描き出した(前者の成果は2018年12月に公表済みで、後者の成果は2019年6月に公刊の予定)。次に、これまでのピアニスト小倉末子(1891-1944)研究の経験と成果に基づいて、日本統治時代の朝鮮半島で発行された新聞の調査を行い、朝鮮における永井の活動とその問題点を抽出した(その成果は2019年3月に公表済みである)。卒業生のデータ入力アルバイト1名の働きによって、多数の新聞記事をスムーズに整理することができたことを記して感謝する。 また、当時の音楽雑誌や一般雑誌に掲載された関連記事の収集を、国会図書館関西館を始めとする関連図書館で行なった。台湾からの留学生の協力を得て、台湾で出された戦前の新聞のデータベース調査を2019年1月から3月にかけて実施することができたのは幸甚であった。さらに、1949年7月27日のアサヒグラフに掲載された1枚の写真をきっかけとして、ステージ活動から引退(1941年)した後の永井郁子の所在や活動について、福井県勝山市で調査を行って具体的な成果を得ることができたのは望外の喜びであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
永井郁子の場合には、新聞や雑誌調査に予想以上の手間暇がかかり、初年度にある程度の成果(大学の紀要論文3本)を上げることができたものの、まだまだ課題が残っている状態である。 研究計画の中でも述べたように、永井郁子『邦語歌唱十六講・いばらの道』(東京:噴泉堂、昭和7年)に第500回演奏会までの開催都市名(北は樺太、南は台湾、西は満州・朝鮮から支那に及ぶ)と開催回数の一覧表(残念ながら開催年月日や演奏会場名等は記載がない)、および掲載紙誌の月別一覧があり、これを手掛かりに一定の成果を着実に上げてきている。しかしながら、第501回から第999回までの演奏会については、新聞のデータベース調査からも期待したほどの手掛かりは得られず、この様子では全体像を明らかにすることは相当難しいのではないかと感じ始めている。 一方、勝山市教育委員会市史編纂室の山田氏の協力によって、戦争末期の永井郁子の疎開先やそこでの教育活動について、『町の新聞』(勝山市の市報の前身)掲載の記事等を閲覧収集することができた。当時開校したばかりの福井県立勝山高等学校で音楽の授業を受けた第1期の卒業生に会わせて頂いて、永井郁子の歌の指導について思い出を語ってもらったり、疎開先であった寺を訪問して、1949年のアサヒグラフに掲載されていた当時のままに残されている庭を拝見させてもらったりと、思いがけない展開と成果を得ることができたのは大きな喜びであった。このように予想以上の成果を得られた面もあるので、全体としてはほぼ順調に推移していると言うべきであろう。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の2019年度は、1)女性雑誌や少女雑誌等における関連記事の調査収集と、2)地方新聞における関連記事の調査収集を行う。女性雑誌や少女雑誌は、国会図書館や日本近代文学館にも所蔵が少なく、婦人雑誌の専門図書館(石川武美記念図書館)でも欠号が多いため、調査収集が困難な場合が多いが、緻密な準備を行うことで集中的に収集する。地方新聞については、初年度に山陽新聞や樺太新聞等を試験的に調査してみたところ、非常に時間が掛かるものの、一定の成果が得られることが分かったので、粘り強く継続していく積りである。 一方、7月に国際美学会(於:セルビア国ベルグラード市ベルグラード大学、発表タイトル: 'Movement for Singing in Japanese' (1925-1941) of NAGAI Ikuko: Gender, Femininity, Colonialism, and Imperialism)、10月に国際音楽学会東アジア大会(於:中国江蘇省蘇州大学、発表タイトル:NAGAI Ikuko's 'Movement for Singing in Japanese' (1925-1941) in Colonial Korea and Taiwan)、12月にオーストリア音楽学会全国大会(於:オーストリア国メルボルン市モナシュ大学、申請中)で研究発表をする計画で準備を進めている。国際美学会は3年に一度、国際音楽学会東アジア大会は2年に一度の機会でもあり、研究成果を発信することで、今後の研究の精度を上げることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
実質的には使い切っていたが、伝票処理の流れの都合上、翌年度当初に処理された形となったものである。
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