研究課題/領域番号 |
18K00158
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
前原 恵美 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 無形文化遺産部, 室長 (70398725)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 常磐津節 / 三味線音楽 / 五線譜 / 音楽構造 |
研究実績の概要 |
今年度は、大きく分けて以下の二点の研究を進めた。 第一に、昨年度収集した常磐津節の視聴覚資料のデータベースをもとに、常磐津節音楽分析の試論として《子宝三番叟》を取り上げ、3種類の音源から五線譜に採譜し、音楽分析を試みた。作品および音源の選択にあたっては、現行曲の中で①素浄瑠璃(演奏会形式)でも歌舞伎・日本舞踊伴奏でも演奏される作品、②複数の種類の視聴覚資料が比較可能な作品、③(生演奏の記録や放送のための撮影・録音ではなく)市販のための音源、を基準とした。今回取り上げた《子宝三番叟》には3種類の該当音源があるが、いずれも素浄瑠璃の録音でありながら年代、演奏の「場」、芸系が異なる。これらの音源を五線譜に採譜し、①旋律(浄瑠璃の節、三味線の手)、②リズム、③ノリ(テンポ感およびその変化)、④浄瑠璃と三味線の合い口(両パートの相関関係)、の観点から分析し、最大公約数としての作品の骨格の抽出を試みた。本稿は論文刊行準備中である。 第二に、三味線音楽の五線譜化事業の例として昨年度より調査を進めていた、東京藝術大学附属図書館所蔵の邦楽調査掛による常磐津節五線譜について、事業の目的や経過を整理するとともに、現存する当該常磐津節五線譜の検証を行い、「邦楽調査掛による常磐津節五線譜化の考察」(『無形文化遺産研究報告』第14号、東京文化財研究所、2020年3月)で発表した(今後、東京文化財研究所のウェブサイトで公開予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に、昨年度より引き続き、対象となる視聴覚資料の収集と採譜を進めている。 第二に、音楽の骨格と細部の多様性の整理を進めるべく、試論を発表、刊行準備中である。もっともこの過程で、三味線音楽における「譜」の目的、あるいは用途に応じた「譜」の在り方に関する課題整理が派生している。 第三に、邦楽調査掛による五線譜化事業に関しては、その目的と経緯を明らかにし、当該五線譜との照合を試み、論文として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
《子宝三番叟》に続き他の常磐津節作品についても、今年度試みた五線譜による採譜と音楽分析方法を応用して方法論の検証、確立を試みる。年度末に採譜を含めた報告書を作成・刊行し、ウェブ公開する予定である。 なお、五線譜による採譜と音楽分析を通して、「実演のための譜」と「分析のための譜」は分けて考えることが必要ではないかと考えるに至っている。三味線音楽における「譜」の目的と目的に応じた「譜」についても、考察を取りまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に関西地方での調査を予定していたが、新型コロナ感染拡大を鑑みて中止したため。
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