常磐津節は素浄瑠璃(演奏会形式)のほか、歌舞伎や日本舞踊とも緊密に関連してきた代表的な三味線音楽であるが、音楽そのものの研究は進んでいない。その原因の一つは、公刊譜がほとんどないことにあると思われる。そこで本研究では、①常磐津節音楽分析の基礎として視聴覚資料からの採譜を行い、②「譜」を用いた音楽分析によって音楽構造を明らかにする手法を確立し、常磐津節の音楽研究の基盤となる研究を行うことを目指した。 出版された楽譜が少ない常磐津節について、これまでに儀礼的な「祝儀もの」やドラマティックで筋立てが明確「時代もの」などの作品群から、第三者が検証可能な視聴覚資料が確認できた作品を取り上げて採譜し、比較分析を行った。ここでは、同一作品を複数の視聴覚資料で比較することにより、それぞれの演奏に共通する部分や表現の幅が許容される部分を明確にし、音楽構造や歌詞内容に応じた表現上の役割や効果を解明した。 最終年度には、今後の研究の展開を視野に入れ、現在はほぼ伝承が衰滅している富本節、常磐津節、清元節の豊後三流に共通する作品群「山姥物」に着目した。これまでと同様の手法を用いて、まず視聴覚資料から採譜を行ったのち、比較を行った。これにより、三流派間の歌詞の変遷が明らかになり、詞章に手を加えたことにより各流派が何を意図したのかを解明した。また、三流派に共通する詞章部分について、浄瑠璃と三味線の関係を分析、比較することにより、それぞれの流派の詞章への節付けや手付の特徴を明らかにした。以上により、本研究で用いた手法による音楽分析について、今後の応用の道筋を実証的に示した。
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