研究課題/領域番号 |
18K00160
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
久米 順子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (60570645)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中世イベリア半島 / 中世キリスト教美術 / スペイン美術 / ムデハル美術 / 異文化交渉 / スペイン史 / 文化史 |
研究実績の概要 |
中世イベリア半島のキリスト教美術・建築において、キリスト教社会のなかで宗教的文化的マイノリティであったムスリムやユダヤ教徒が、マジョリティであるキリスト教徒の美術にいかに関与したのかを探るために、今年度はいくつかの事例研究にとりかかった。過去に科研費(若手研究(B))の課題「中世スペインにおけるキリスト教とイスラーム間の異文化交渉:トレドのムデハル美術」で基礎調査を行ったトレドの諸聖堂から、イスラーム的要素を数多含むキリスト教聖堂壁画についての研究を進展させて、スペインでの国際会議において口頭発表を行った。また、13世紀のカスティーリャ王国の宮廷で重用された宗教的文化的マイノリティ集団について、国王が作らせた数冊の写本挿絵のなかの彼らの描かれ方と、王が実際に彼らに対してとった政策との関係性を考察する口頭発表を行った。これらについては、引き続き研究を推し進めて、マイノリティ集団が中世イベリアのキリスト教社会で果たした文化的役割を、具体的な事例研究を通して明らかにしていきたい。 成果の点では、邦語初となるスペイン美術史の通史の出版に分担執筆者として参加したほか、トレドの写本挿絵に関する欧文論文1本ならびにロマネスク美術における動物表現に関する欧文論文1本が刊行された。また、長年にわたり進めてきた中南米の西欧中世学研究者たちとの学術的交流の成果のひとつとして、中南米、西欧、日本の研究者による中世学論文集を電子出版物としてまとめることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中核を成すのは、①中世イベリア世界のキリスト教美術における宗教的文化的マイノリティの関与という中世美術の事例研究と、②そうした事例の近現代のスペインにおける解釈の変遷およびその歴史的背景の解明という2点の大きな目標を組み合わせるというアイディアである。 このうち前者については、上記のとおり具体的な事例の検討に入っており、進捗状況は良好である。 一方、後者については、今年度ははかばかしい進展が見られなかった。その大きな理由は、今年度に予定していたスペインでの資料調査に宛てる時間が、諸事情により夏季休暇の間に充分に取れず、春休みなど他の期間の渡欧もできなかった点にある。この分野は日本で関連資料を所蔵する図書館が少ないため、スペインでの現地調査が不可欠である。今後、近現代のスペインにおける中世美術の研究史と受容史を明らかにするために、まずは先行研究の渉猟から力をいれて進めていきたい。とりわけ、19~20世紀のスペイン社会におけるイスラーム美術受容に重要な役割を果したホセ・アマドール・デ・ロス・リオス(1816-1878年)、トーレス・バルバス(1888-1960年)らの思想と実践について、中心的に調査研究を進めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
大きな研究計画の変更はない。研究計画に基づき、研究を進めていく予定である。 ①中世イベリア世界のキリスト教美術における宗教的文化的マイノリティの関与については、今後も引き続き、中世美術の事例研究を積み重ねていく予定である。とくにムスリムたちのキリスト教美術への関与と、キリスト教美術におけるムスリム表象について、双方向的に考察を行っていきたい。 ②スペイン社会の集合的記憶の形成における宗教的文化的マイノリティ集団の関与に対する評価の変遷とその歴史的背景の解明は、前述のとおり、先行研究の渉猟と読み込みから段階的に考察を深めていく必要がある。今年度の夏季休暇中に、スペインの国立図書館やスペイン高等学術研究院人文社会科学研究センター図書館等で集中的に文献調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
夏季休暇中のスペイン現地調査に予定していただけの時間を充てることができなかったために、旅費の多くが未使用となった。また、そのために文献整理等の謝金業務が発生しなかったため、謝金についても当初予定していた支出が生じなかった。今年度には長期の現地調査を予定している。
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