当該年度はコロナ禍の影響が続き、調査が行えない地域があることから、大学規定により許可を得たうえでインドネシア調査を9月に行った。遺跡と共に特に博物館資料に重点を置き、その成果を学会で発表した。令和4(2022)年9月3日(土)日本印度学仏教学会第73回学術大会にて「インドネシアの文殊菩薩について」をオンライン形式で口頭発表を行い、『印度學佛教學研究』通号155号71巻3号に掲載した。また仏教文化学会第30回学術大会で口頭発表した内容を『仏教文化学会紀要』第31号「インドネシアの弥勒菩薩像について」令和4(2022)年12月として論文掲載である。 文殊と弥勒という密教の八大菩薩の内の2躯を、遺跡にみられる石造像や博物館所蔵の鋳造像から確認することにより、インドネシアにおけるそれぞれの図像の特徴などを明確にした。 まず文殊菩薩については鋳造像が8~11世紀頃、中部ジャワと東部ジャワ地域出土で26躯確認でき、石造像は8~9世紀頃の中部ジャワ地域寺院にみられる。単独像はロロジョングラン遺跡群に位置するチャンディ・プラオサンを中心にみられ、ボロブドゥール遺跡群のボロブドゥールの『大方広仏華厳経』「入法界品」のレリーフとそこから一直線上に約3㎞離れた密教的要素の強いムンドゥットの本堂壁面の八大菩薩の内の1躯にみることができる。鋳造像・石造像各1躯が確認できるアラパチャナ像を除き、左肩の位置に蓮華上に梵夾を載せた図像であることが共通する。また頭部はロール状の髻(もとどり)が1~3つもみられ、頭部背部に三日月形を有することも特徴として挙げられる。 次に弥勒菩薩像については、鋳造像が5躯で中8~9世紀頃の中部ジャワ、南スマトラ等で優品である。石造像は先の文殊菩薩像をあげたプラオサンに単独像、ボロブドゥールのレリーフ、ムンドット本堂壁面の1躯で特徴は頭部正面に塔の設えがみてとれる。
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