当該年度は、2019年度にも調査を行った鰊漁場建築の石狩市濃昼の木村家住宅(明治33年)で、3Dスキャナー(BLK360)を用いた内部空間の実測を行った。対象は約480㎡の規模であったが、概ね1日(2人)で全室のデータをスキャンすることができた。この調査から、ダイドコロ部分の木造架構と、網元居住部の建具等のしつらえおよび天井面の意匠に関するデータを得ることができた。本調査で得たデータは、初学者や一般にも番屋の空間デザインをわかりやすく解説する基礎データとして活用できると思われる。また、建築部位以外の家具や展示物、木造の梁組の複雑さなど3Dスキャナーを活用する際の課題も把握できた。 また、木村家番屋のダイドコロ部分のアイソメ図を作成し、日本建築学会技術報告集の論文における分析資料として用いた。ここでは、隣接する石狩市浜益の旧白鳥家番屋(明治32年)と比較することで、明治中期には伝統的構法や西洋技術を敷衍した構法を確認することができた。また、積丹半島以北の鰊漁場建築におけるダイドコロとニワの境の独立柱を、土着的な空間デザインとして着目する視座が得られた。土間の独立柱は、東北地方の太平洋側の民家においても特徴的な事例があることから、それらと比較する新たな研究視座も得られた。 研究期間全体を通じて、北海道沿岸部では近代木造建築が点在し、それらは類似した用途であっても異なる建築技術を用いるなど、多様性があることが明らかとなった。従来の学術的研究においても、トラス組など近代的な建築技術に対し伝統的な木造技術が混在する点は指摘されていたが、北海道の事例では東北地方の建築技術との関連性について課題が残った。
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