研究課題/領域番号 |
18K00169
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研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
藤澤 紫 國學院大學, 文学部, 教授 (70459303)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 浮世絵 / 子ども / 玩具絵 / 母子像 / 教育文化 / 出版文化 / 文明開化 / 美術史 |
研究実績の概要 |
本研究は、江戸中期から明治期にかけて制作された浮世絵版画を軸に、出版文化の中で取り上げられた子どもや母子の習俗、教育の変遷を整理し、その位置づけを考えることを目的とする。重ねて、教育ツールとして活用された「玩具絵」の作品データを可能な限り収集し、データベース化を目標に分類と検討を進め、文明開化期を境に紙文化が教育に与えた影響の一端を明らかにすることを目指している。 個人を特定しない庶民層の子どもの日常風景や四季風俗を主題に据え、版画技法を用いて大量に出版、販売された浮世絵のような作例は、日本文化史上極めて特徴的である。初年度にあたる本年は、「子ども文化」を検討する定期的な研究会の実地、展覧会、学会発表、新聞連載、テレビ番組の監修などの活動を通じて成果を公表した。とくに2018年は明治維新150年記念に当たるため、日本の近代化を軸とした多彩な企画が全国で具体化された。本研究代表者も図録執筆等に携わった「明治維新から150年 浮世絵にみる子どもたちの文明開化」展(於:町田市国際版画美術館・足利市美術館 2017~2018年)もその一つであった。近代の美術、教育、歴史など幅広い分野の展覧会や出版物に接する好機にも恵まれ、積極的な情報収集を行った結果、特に明治期を軸とした作品研究の基礎データを構築することができたのも幸いであった。 また代表者が監修する「くもんの子ども浮世絵コレクション 遊べる浮世絵展 江戸の子ども絵・おもちゃ絵大集合!」(2018年1月~2月:広島県立美術館にて開催)の巡回展(2019年4月~6月:練馬区立美術館)も重なり、公文教育研究会所蔵の2000余点の子ども絵コレクションを軸に。玩具絵作品のデータ収集や分類作業を一定量進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は「子どもと出版文化」という観点を重視し、かつ明治維新150年の節目にあたることも勘案し、3つの研究テーマのうち「1.江戸・明治の子ども文化とその意匠の検証」に比重を置き、データの蓄積を充実させた。同時に、公文教育研究会所蔵の2000余点の子ども絵コレクションを軸に、玩具絵作品の分類や画像収集を進め、「2.浮世絵師が手がけた玩具絵の整理と教育ツールとしての機能の検証」に関しても一定の成果を上げることができた。 8月末から9月上旬にかけて、欧州の美術術館、博物館、図書館、ギャラリー等の諸機関にて作品調査も行った。ウィーンでは美術史美術館(Kunsthistorisches Museum)をはじめとする6機関、またドイツでは、ケルン東洋美術館(Museum für Ostasiatische Kunst Köln)、フランクフルト工芸美術館(Museum für Angewandte Kunst Frankfurt)ほか5機関にて、浮世絵を含む多数の良質な子どもや母子を主題とした作例を実見し得た。また浮世絵の画風を写した輸出用陶磁器の作品を多数確認し、関連資料も収集した。特にフランクフルト工芸美術館での実地調査は大きな成果があり、現地の学芸員との専門的な意見交換を含め、初期から晩期にかけての貴重な浮世絵版画のデータを収集することがかなった。 これらの研究テーマを検討する主要な場となったのが、2014年より継続して子ども文化をテーマに研究を進めている「国際子ども文化研究会」の定例会である。美術史、文化史、教育史など多方面にまたがる分野の研究者が集まり、発表を重ねることで、最新の研究成果を共有することができた。また調査や研究の過程で生じた問題点に関しても、この場での情報交換を通じて新たな意見を有することで早期に解決へと導くことができた。
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今後の研究の推進方策 |
近年、近世から近代にかけて刊行された浮世絵の図像、とりわけ子どもを描いた作例に対して、教育学や風俗史の観点からアプローチする研究が増加している。本研究代表者も図像学の観点などから子どもや母子像の検討を進めてきたが、その過程で、子どもが遊具として愛好した「玩具絵」の知育教材としての有効性や、優れた意匠性を再確認し、分野をまたいだ学際的な研究を進めている。 2019年度は先に掲げた「1.江戸・明治の子ども文化とその意匠の検証」および「2.浮世絵師が手がけた玩具絵の整理と教育ツールとしての機能の検証」の2つの課題を引き続き遂行し、一層のデータの充実を図るとともに、具体的な分析を進める。加えて2018年度に収集した錦絵の作例を軸に、3つ目の課題である「3.文明開化期を介した紙と絵具の検証と価格の考察」に関しても実践的な調査、分析を進める予定である。 また研究会の開催に関しては、2019年度は基本的に月毎に1回、計12回前後の実地を予定している。毎回1名の発表者もしくは複数で報告を行うほか、実地見学や調査も含め、課題に関わる精力的な研究を進めていく。 また今年度の研究を進めている過程で、新たな研究課題として、日本美術史上における「母子像」が有する諸問題が浮上した。西欧における「聖母子像」の流布と比して、日本の造形文化で「母子像」が信仰と深くかかわる例は、「訶梨帝母」などいくつかの例を除けば少ないと言えよう。むしろ浮世絵のように「風俗画」の流れのなかで育まれた画題である点に着目すれば、子ども文化研究の一環として、日本独自の母子像の在り方をより明確にすることができるのではないかと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年8月30日~9月7日に実地したオーストリア・ドイツ調査時の渡欧費用に際しては、当初より本研究費を用いる予定であったが、調査日程に急遽変更が生じたため、申請日数の関係からこれを断念し、すべて自費での渡航となった。そのため、2018年度は旅費の申請を見送る結果となったため、これを2019年度、20年度の旅費に加算し、初年度の研究成果を受けて新たな調査候補となった海外機関への渡航費に充てる。
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備考 |
・寄稿「ひろがる「浮世絵」の世界 國學院大學哲学会会報 2018年 ・新聞連載 藤澤紫「浮世絵と遊ぼう!」①江戸の子どもにも人気②がんばる明治の子どもたちほか(河北新報、苫小牧民報、長野日報、陸奥新報、八重山毎日新聞)2018年4月~2019年3月 ・展覧会監修「くもんの子ども浮世絵コレクション 遊べる浮世絵展」2019年4月28日~6月9日、練馬区立美術館で開催(初回展示2018年広島県立美術館)
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