研究課題/領域番号 |
18K00170
|
研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
宮崎 法子 実践女子大学, 文学部, 教授 (20135601)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 中国文人画と日本の南画家 / 南画家の中国画学習 / 王原祁の実景山水 / 石涛の倣古山水 / 古画学習 / 元代文人画家の実景山水 / 黄公望 / 王蒙 |
研究実績の概要 |
2022年度当初に中国での現地調査の困難が予想されたため、国内調査による新たなアプローチを試みた。まず、中国の文人画と深い関係があるものの中国美術史の視点からの研究は進んでいない日本の文人画家、特に中国の詩文や文化への造詣が深く、先行研究によってその生涯や思想などに関する文献資料がまとめられている田能村竹田の画業について、倣古的側面(中国画学習)と実景描写の関係を、代表的作品を網羅的に調査し研究を進めた。そこで、竹田の中国画学習の機会を確認し、それが作品へどのように表れているのかを確認し、特に実景山水画制作における中国画の参照について分析を行った。また、竹田の次の世代の近代の日本の南画家の作品調査を行い、両者の間にみられる情報量の圧倒的な差が、画風の大きな変化をもたらし、特に実景図制作に大きな差が現れていることを把握した。これらの調査を通じて、中国の文人画家たちに共通する傾向として、古画学習機会の多寡を実景山水図制作との関係を捉える視点を得た。 このような視点から、倣古画で知られる正統派の王原祁と、倣古を否定し実景(黄山)に学ぶと繰り返し明言した個性派画家石涛という、同い年の全く異なる環境の画家たちが、その出会いの後、王原祁に実景図制作が見られ、石涛に王原祁画の影響が見られることに着目し考察を行った。 さらに、古画学習機会の多寡という視点によって、元の文人山水画成立期に重要な役割を果たした趙孟フ[兆頁]と元末四大家のうち黄公望や王蒙などの実景山水を多く描いた画家たちについて、彼らの古画へのアクセス状況や環境の差がもたらした作画の特色を検証する作業を始めた。そして、彼らが自らの画風を確立していく上で、実景山水画制作がこれまで考えられていた以上に大きな意味を持っていたことを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究申請時の計画にあった中国での現地調査、北米や台湾、中国における作品調査が新型コロナの影響により延期を重ね、22年度も海外調査を実現できなかった。その点で大きく遅滞しているというべきである。一方、作品調査の対象を日本の文人画家、田能村竹田などの作品調査にシフトしたことで、日本の代表的文人画家の優品を網羅的に調査し、整備された文献資料と伝記資料を参照して、一人の文人画家の古画の学習機会が作画に及ぼした影響を把握し、また実景山水に見る中国画の影響を具体的に分析する作業を行うことができた。それを通じて、中国文人画研究にも応用できる文人画家の古画学習機会という要素、また画家がそれぞれの時期にアクセスしうる情報量の多寡が、実景山水図への取り組みや、自己様式の形成にもたらす影響という新たな視点を獲得できた。従って所期の計画通りではないものの、研究の進捗は果たせたということができる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、22年度に行った田能村竹田を代表とする日本の南画家作品の調査の成果を生かして、中国の文人画家における古画学習と実景描写の係わりについて、特に元の趙孟フ[兆頁]と黄公望、王蒙の三者の文化環境の違いを確認し、その上で、王蒙「青卞隠居図」や黄公望「富春山居図巻」などの中国文人画の古典的な名画における古画学習参照や、倣古的側面と実景描写の関連、さらには、それらの実景画が、のちに古典として学習され画題として踏襲され、倣古画の底本になっていく状況について、俯瞰的に捉える形で研究のまとめを行い、発表する予定である。また、必要に応じて台湾、中国などの作品調査も実施する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響により予定していた海外調査が実施出来なかったため、調査活動が可能になった国内での作品調査に振り替えて研究を遂行したが、それによって当初予定していた海外旅費の予算を使い切ることが出来なかった。今年度は、引き続き国内調査を行うとともに、中国や台湾など海外での作品調査を実施する予定である。
|