最終年度である2023年度は、国内調査と研究成果のまとめを優先させた。2019年度にすでに、倣古主義を決定づけた文人画家董其昌の作画に見られる実景描写について研究を発表しているが、その後、もともとの計画では元代の文人画成立期の倣古と実景描写について研究を進める予定であった。しかし、コロナ禍で海外調査が実施できないなどの制約下で、元代の状況についての研究を中断し、関連史料の多くを国内で得やすい、清初の個性派画家で、倣古を否定し実景山水を描いた石涛を取り上げ、対照的な境遇にあった同い年の正統派画家の王原祁と対比しつつ、石涛における古画学習機会の変化が画風に与えた影響と、石涛と王原祁の各々の環境下で実景描写と倣古(古画学習)がどのように相関したかを位置づけた。この成果は「文人画家の倣古と個性ー王原祁と石涛の軌跡とその交差を中心に」(『実践女子大学美学美術史学』38号)として発表した。また、講演を依頼され、蘇州の文人画の復興を可能にした元代の文人画の継承と、実景図である別号図の流行などについて「中国絵画の15世紀ー蘇州における花開く文人文化」として発表した。 また、研究期間中、海外調査が困難な時期があったため、研究の対象に日本の江戸時代の文人画家たちの作画における倣古(中国画学習)と実景(日本の風景を描くこと)を加え、作品調査と研究を行った。幕末の田能村竹田、岡田半江、半江の弟子であった橋本青江を代表とする近代の女性画家の画業を中心に、昨年度から作品調査を行い、研究を進めている。その成果は、実践女子大学香雪記念資料館における女性文人画家展の企画やそれに関連する論考などの形で発表してきたが、今年度の成果は「波多野華涯ー明治大正昭和を生きた女性文人画家」の企画と作品解説である。 また、日本美術における中国美術の影響について執筆を依頼され、そこに本研究成果の一部を反映させた。
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