研究課題/領域番号 |
18K00172
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研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
木下 京子 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (60774560)
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研究分担者 |
五十嵐 公一 大阪芸術大学, 芸術学部, 教授 (50769982)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 城郭御殿 / 廃城令 / 財務省売立記録 / 狩野派 / 引手金具 / 山中商会 |
研究実績の概要 |
2018年度の研究内容として、9月に二条城、12月に名古屋城、そして3月に渡米し、ボストン美術館およびフィラデルフィア美術館において杉戸調査およびアーカイブ調査を行った。アメリカではメトロポリタン美術館とワシントン郊外在住のファインバーグ邸において城郭建築の杉戸絵の図像と類似性が見受けられる絵画の作品調査も進めた。 二条城には杉戸が156面、名古屋城には66面現存し、そしてボストン美術館には杉戸が12面、フィラデルフィア美術館には34面収蔵されている。杉戸の図像と引手金具の調査を中心に、杉戸の板目や板の合わせについても着目し記録をとった。杉戸の点数が多いことから、二条城と名古屋城での杉戸調査では2チームに分かれ、図像調査と引手調査を遂行した。 ボストン美術館の杉戸12面のうちの6面、およびフィラデルフィア美術館の杉戸すべてが山中商会を通して寄贈・購入されたものである。戦前の山中商会は欧米にも複数の支店を持ち事業を拡大していたが、山中商会の国内外の活動に目を向け、解体された城郭御殿の障壁画や建築部材がどのような販路で山中商会の手に渡り海外に請来されたのか、廃城令により取り壊された城郭御殿の資料調査を開始した。 作品調査と並行して、東京国立博物館が所蔵する「江戸城下絵」(264巻)のうち杉戸絵の下図の調査を行った。 ボストン美術館に杉戸が収蔵されたのは20世紀初頭であり、岡倉天心やウィリアム・ビゲローらが関与していたことが判明したが、ニューヨークを拠点とした山中商会をはじめ、ボストンとフィラデルフィア、ワシントンDCなど米国東海岸で活動した古美術商のアーカイブ調査も作品熟覧の合間に行ったが、アーカイブ調査は次年度においても継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外調査は2019年度に行う予定であったが、初年度にボストン美術館およびフィラデルフィア美術館の杉戸調査を行い、これらの図像や引手金具と関連すると思われる杉戸が国内の建造物に設置されている城郭御殿や寺社に当たりをつけることが可能になると考え、現地調査を前倒しに行った。その結果、ボストン美術館ではビゲローが寄贈した杉戸4面と個人より遺贈された杉戸2面が存在することが判明した。ボストン美術館本杉戸のうち《白カン図杉戸》と《寿老人図杉戸》は岡倉天心が狩野栄川院典信の工房作と判断している。しかし3月の調査で所蔵が明らかになった、巨大な旭日が鮮やかな《鶴に波涛図杉戸》や薄の向こうに見える銀泥の月が印象的な《武蔵野図杉戸》は二条城や名古屋城の杉戸の図像やフィラデルフィア本杉戸の図像とは全く異なる。二条城と名古屋城の障壁画は狩野探幽が総指揮を執り、杉戸絵も狩野派の絵師により描かれたが、フィラデルフィア本杉戸も図像より狩野派の絵師が描いたと考えられる。しかし《鶴に波涛図杉戸》や《武蔵野図杉戸》は全く系統の異なる図像である。さらに引手金具の意匠も二条城や名古屋城など徳川家に関係する城郭御殿やフィラデルフィア本杉戸が持つ「葵の丸紋」や「裏葵の文様」を持つ引手とは異なるが、杉戸の法量と金具の大きさからこの二件4面の杉戸も城郭御殿が解体されアメリカに請来されたものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は再度渡米し、在米杉戸およびアーカイブス調査を継続する。またボストン美術館の《鶴に波涛図杉戸》と《武蔵野図杉戸》の引手金具の形状や意匠と類似する引手を国内の杉戸の引手金具と照合作業を行う。 国内調査についても、まとまった点数の杉戸を保持する三河武士のやかた家康館、そして弘前城や和歌山城などの本丸御殿の調査を検討している。そしてフィラデルフィア本《高麗鶯に竹図杉戸》と近い図像を持つ川越の喜多院の杉戸調査を行う所存である。 そして廃城令に伴い、財務省主導で行われた解体された城郭建築の建築部材・建築金具・障壁画の売立てについて調査を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度3月の渡米に際し、研究協力者の松本直子氏および久保智康氏が、それぞれ家庭の事情により急遽不参加となり、二人分の渡米費用が浮き、残金が生じた。 2019年度は、研究協力者の久保氏および本研究代表者の木下が渡米し、在米杉戸およびアーカイブス調査を続行する為、残金は2019年度助成金と併せて海外調査旅費として使用予定である(8月下旬に実施予定)。 また、家康館、弘前城、和歌山城、喜多院等への国内調査旅費、関連する文献購入費用として使用予定である。
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