研究課題/領域番号 |
18K00172
|
研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
木下 京子 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (60774560)
|
研究分担者 |
五十嵐 公一 大阪芸術大学, 芸術学部, 教授 (50769982)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 城郭御殿 / 海外流出 / 狩野派 / 引手金具 / 徳川家 |
研究実績の概要 |
昨年度3月に研究代表者の木下、研究分担者の五十嵐氏、研究協力者の奥平氏の3名はボストン美術館とフィラデルフィア美術館の所蔵する杉戸の調査を行ったが、今年度の4月~6月はこの3名それぞれが研究を深化させた。研究協力者の松本直子氏は所属する二条城の杉戸と城郭御殿内における配置について調査を進め、当時の図面と現状に齟齬があること、そして御殿内の各室の用途と杉戸絵の図像の関係性などの調査を進めた。7月に本科研メンバー全員が集まり、アメリカの杉戸および松本氏の調査研究の経過報告を行い、意見交換を行った。8月に研究協力者の久保智康氏と木下がフィラデルフィア美術館を訪れ、調査を継続した。保存修復部のスタッフの協力を受け、杉戸の引手金具を外しての調査を行うことができ、引手金具の構造から細部にいたるまで精査することが可能になった。12月に岡崎市武士のやかた家康館に所蔵されている杉戸および名古屋市博物館に寄託されている杉戸を朝日美砂子氏を研究協力者に迎え、奥平氏を除くメンバー全員で調査を行った。 ボストン美術館所蔵の杉戸「寿老人図」は、岡倉天心が作者が狩野典信と推定しその記録が残されているが、図像的にもフィラデルフィア本と共通性が見られ、18世紀後半の狩野派により制作されたと考えられる。しかし同館所蔵の「旭日飛鶴図」や「武蔵野図」はこれまで調査してきた杉戸絵とは大きく異なる杉戸絵で、杉戸絵の画題や図像は予想以上に幅があることがわかった。この2点はボストン美術館では19世紀と記録されているが、制作年代は早まると考えられ、また従来の狩野派による杉戸の図像とも異なることから、この杉戸の流出元や城郭御殿における設置場所など、改めて江戸時代の城郭御殿の装飾と襖絵や屏風絵との相関関係を検討する必要がある。松本氏の二条城における杉戸の配置、および各室の用途と杉戸絵図像の関係性の探究はその大きな手掛りとなる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年の3月に徳川家ゆかりの建造物、具体的には日光東照宮および川越の仙波東照宮と喜多院、川越城で杉戸調査することになっており、二条城と名古屋城、そしてフィラデルフィア本杉戸とボストン本杉戸との比較検討を行うことで、いくつかの成果をまとめることができると期待していたが、コロナ禍により日光と川越の調査を断念せざるを得なくなったため。
|
今後の研究の推進方策 |
現時点において、研究期間の一年延長の申請を検討している。Covid-19の感染の終息がみえ安全が確認されたら、日光と川越の調査を行い、その他に和歌山城など現存する近世城郭御殿の杉戸調査も新たに加えたい。そして延長が認められた場合、2022年の最終年は資料整理と史料調査、報告書作成に時間を充当する所存である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため2019年度に予定されていた調査が延期になったため、交通費や宿泊費などの調査のための諸費用が使用されなかった。 2020年度に延期された調査を実行すると同時に、2021年は立案されていたその他の調査も行うことを検討している。
|